二-七
No.24
「あなたはずいぶん考えこんでますね。いつもムスッと黙まりを決めている。もっとスカッとした気分になりましょう。過激な、血がたぎるような街に行きましょう。ここは良い街です。あなたもきっと興奮しっぱなしですよ」
日が沈みかけて、冷たい風が吹いていた。(服を着替えた)道化師と彼は、ゴミゴミした狭い通りを歩いた。小さな家々が並び、全てが灰色で静かだった。
通りにいた人々は厚手の服を着ており、皆一様に茶色をしていた。そして皆同じ方向に歩いていくのだった。二人も同じ方向に歩いていく。
「向こうで催し物がありますよと言っても、さっきの様な物じゃないので安心してください」
そのうちに、この通りの先に広場が見えた。その広場には人だかりがあり、それぞれ談笑しながら、何かを見物していた。その中をかき分けて進むと、奥にあるちょっとした空間で公開処刑をしていた。人々は、銃を構えた人間たちと、その銃口を向けられた人間たちを見ていた。
狙われている人間たちは、壁に沿って一列に立たされていた。皆後ろ手に縛られ、俯いて並んでいた。盛り上がった観客が、罵声を浴びせかけている。その光景を見つめる彼に、道化師は囁いた。
「皆あなたの為にやっている事です。皆あなたの勝利を願ってますよ。皆あなたの号令を待ってますよ。皆あなたに従ってますよ。皆あなたに感謝してますよ。皆あなたの勇敢さを真似しますよ。皆あなたを殺したがってますよ。あなたは皆を殺したがってますよ。皆が皆あなたですよ。あなたがあなたで皆ですよ。あなたが皆であなたですよ。皆があなたで皆ですよ」
そう言い終わると、道化師はその場所に彼を突き飛ばした。銃を持った人々は彼を歓迎し、彼に銃を渡した。観客は彼に、撃ち殺せ、血を見せろ、早くしろ、と叫んだ。
道化師も皆と一緒になって叫んだ。
「そうだ! 撃ち殺せ!
そいつらは人肉食いだ。人間の意志で高く積み上げてはだめだ!
全て病気だ!
全て死んでるぞ!
全てに役割を与えろ!
合理的で理屈っぽく、かつ暴力的にやれ!
一生懸命やれ! 撃ち殺せ!」
彼はそのまま何もしないで突っ立っていた。背後から道化師の急かす声が聞こえた。
「あなたの考えている事は判ります。片目ではうまく狙えない。口が無ければ号令はかけられない。あなたは克服しなければいけない。知るという事は殺す事だ。彼らに教えてやりなさい、死を。
死というものが怖ろしければ怖ろしいほど
死というものが不変であれば不変であるほど
死というものが確実であれば確実であるほど
死というものが終わりであれば終わりであるほど
死というものが超えられなければ超えられないほど
一切に始まりがあるなら、死に憧れ
一切に終わりがあるなら、やはり死にたくなる
より早く、全ての思考で
より早く、全ての意識で
より早く、全ての行為で
あなたは犯罪者なのだから、早く引き金を引きなさいよ」
周囲の観客の熱狂が高まる。彼は道化師に背を向けたまま前に進み、後ろに向き直って銃を構えた。銃口を道化師の胸に向け、狙いを定めた。
「なるほど、道化など要りませんか? 無い方がいいと。しかし、あなたは嘘つきでいい加減だ、まるで詐欺師だな。騙されましたよ。目、口は返します、イヒヒ、良かったね、お達者で」
道化師は腰から下げていた袋からピストルを取り出し、自分の頭に向けて撃った。彼の目と口は元に戻った。彼は人々に捕まり、殴られ、縛られ、何処かに放り込まれた。




