二-五B
No.22
「あなたはとても怒ってますね。いつもむっつり塞ぎ込んでらっしゃる。もうちょっと陽気になりましょう。だから、楽しく愉快な街に行きましょう。ここは良い街です。あなたもきっと心地よく過ごせますよ」
道化師と彼はカラフルな高層ビルが立ち並ぶ通りにいた。この街は明るく、華やかで、暖かかった。店が通りに何軒もあり、人が行き交い賑やかだった。彼は黙って道化師の後をついて行った。道化師は辺りを見て、
「どうです? 良い所でしょう? あなたが主人公になれる(この物語ではあなたが主人公だけれども)所に行きますよ。楽しみですね」と言った。
向こうから来る人とすれ違う。この街の人間は何やらぼやけており、存在感が無く、彼には人間の様には思えなかった。何か自分とは別の生き物、もしくはこの街の背景の様にも思えるのだった。自分たち以外は誰もいないのではないだろうか? ここは誰の世界なのだろう?
このビルですよと道化師が言った。とてつもなく高いビルだった。抽象的な絵画のような、派手な模様が壁一面に、最上階まで描かれており、見上げた彼は目が回りそうになった。
二人はこのビルに入り、エレベーターに乗った。道化師は最上階のボタンを押し、浮かない顔をしている彼に囁いた。
「皆あなたを歓迎していますよ。皆あなたに好意を持っていますよ。皆あなたを天才だと思っていますよ。皆あなたを素晴らしいと言っていますよ。皆あなたを毎日拝んでいますよ。皆あなたの事を口々に噂していますよ。皆あなたの事を観察していますよ。皆あなたを祝っていますよ。皆であなたを祝いたいのです。讃え合いたいのです」
彼はうつむき、聞いていた。




