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二-四

No.20

 長い夜が明けて、砂漠に太陽が昇る。暖かい光が、頭と目と足と手と心臓を除いた内臓が無い、影の大きな子供の体を照らした。子供に強く光があたる。その影はしだいにはっきりと、黒く、深く、大きくなった。横になっていた影は起き上がり、子供を見ていた。時間が経ち、太陽はさらに昇り、真上に来た。それに合わせ、影が小さくなる。太陽は語りかけてきた。

 「一つのものは、全てであり、また無だ。お前に光を与えてやろう。お前に人生を与えてやろう。希望を与えてやろう。死を感じない様にしてやろう。お前は全て一つのものとなり、一つのものはお前になるだろう。唯一のものが沈む時、お前も死ぬだろう」

 子供は頷き、

 「僕は、唯一のものを信じ、それが無くなる時、死ぬだろう。僕は命を与えられた。定められた様に生き、虚無を恐れない。僕は全てであり、全ては僕だ。光は僕であり、僕はそれ以外何も信じる事は無いだろう。僕は生と死を太陽の様に感じたい。僕は円環を望む」と言った。

 「お前は命を捧げなくてはならない。何故なら、生命を与えられたからだ。お前の心臓は全てのものだ。それを、捧げるか?」

 顔を上げて、話を聴いていた子供は、黙って砂に顔を伏せた。顔の下の影が、形を変え、膨れ上がり、小人の様になった。小人は言った。

 「騙されてはいけない。太陽はすぐに沈むだろう。太陽が沈む時、君も死んでしまうだろう。君はまだ生きるべきだ。自分の生命は自分で管理するものだ。違うか?」

 そうかもしれない、と子供は呟いた。

 「私に、心臓を預けなさい。君の望む事をしよう。君を解放しよう。君を自由にしよう。どうだろう。私に、それを任せてもらえないだろうか?」

 小人の形をした影の話を聴き終わると、子供は不気味に笑い、

 「別に構わない。俺は別に太陽だろうが、真理だろうが、生命だろうが、信仰だろうが、教えだろうが、何だって構わない。もちろん影だろうがな。早く楽になりたい」

 小人は、ぴょんぴょん跳ね、

 「早く、早く、心臓を寄こせ、寄こせ」

 と言って喜んだ。

 「私は何一つ許さない。私は私を殺す。私はこの小人の様な影に心臓を捧げる。俺はお前を許さない。この日が沈む時、俺は必ずお前を殺す」

 子供の心臓は、影に取り上げられた。

 子供の体は、少しずつ小さく、黒くなり、ついに影になった。影はそれに伴い、体が少しずつ大きく、形と色が加わり、ついに人間になった。

 元に戻った彼はほっとして、体を起こし、ため息をついた。そして立ち上がり、砂を払い落としていると、背後から声を掛けられた。

 「ちょっとあなた、また、約束破りましたね」

 驚いて、振り返ると、派手な衣装を着た人間が彼の真後ろに立っていた。彼が向き直りその人物を見ていると、その人物は頭に被っていた三角の帽子を取り、自己紹介を始めた。

 「ここから先の案内役の、道化師です。どうも、よろしく」

 と言って、ペコッと頭を下げた。そして、下げたその勢いのまま頭が取れ、砂に落ちた。見ていた彼は呆気にとられ、

 「あの、頭落ちましたよ」と言った。

 「ええ、落ちましたよ、うん、頭だって首から落ちる」

 と砂に落ちた頭が喋った。その頭は毛が生えてなく、さっき彼が目撃した所では顔のパーツが無く、のっぺらぼうだった。口が無いのに、話していた。道化師は屈んで頭を取り、首に乗せ、帽子をかぶった。

 「どんな顔してますか?」と道化師が言った。

 「どんな顔って……、表情? じゃないな、顔が無いですよ。何処かに落としましたか?」

 彼は気を取り直し、道化師に尋ねた。彼はここが何処だか、思い出していた。何があっても不思議ではないはずだ。

 「中々良いところを突きますね。いや、まさか、己の顔を何処かに置き忘れるような事はしませんよ。実は、この顔は、あなたの心を反映しているんです。あなたの心には表情が無い事を現しています! 残念!」と道化師は変な声を出して言った。

 「何でもいいですよ。あなたは案内役なのだから、ふざけてないで、案内してくれればいいんですよ」

 彼はややうんざりして言った。



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