二-二
No.18
部屋の中に、成人が何人か入って来たのが見えた。子供が呼んだようだ。少しの間、部屋の中を確認していたが、何も見つからなかったようで、出て行った。
その内、夕飯の時間が来た。ここは何時も夜なので、時間ごとに飯を食べる。子供は食堂に行く。この食堂は子供用の食堂だ。子供たちが集まって、飯を食べる。本来十四人の子供がいたが、今は七人行方不明になり、七人しかいない。年長の子供は年少の子供に飯を食べさせる。形は既に壊したものを食べさせる。壊すのは成人の役目だ。皆の食事が終わった頃、一人の成人が子供を呼びに来た。十二歳の子供を呼び、連れて行った。
成人と子供の二人は、三階にある老人のいる部屋に向かった。老人に傷をつけるのは子供の仕事だからだ。老人のいる四人部屋に入ると、全ての老人が溶けてしまっていた。床は水浸しであった。他の老人がいる隣の部屋に入った。そこも同様であった。これでは食べるものがなくなってしまうな。僕、全員見てきます。病院にいる全ての老人が溶けてしまっていた。
成人と子供は、二階にある、老人の形を保管している部屋に行った。部屋にはまだ六十以上の形があった。まだ当分の間は大丈夫だな。ただ、我々も直にいなくなるだろうな。何か黒い男が来たって言ってたな。そうです、黒かった。誰だろうな、気を付けた方がいいな。子供は歩いて行って、一つの形の前に座った。この形は以前この部屋に来たときから気になっていた形だ。子供が形を見ていると、成人はその隣に座り、話し始めた。
我々には影は無い。目撃された黒い男は、影だろう。おそらく自分の持ち主を探しているのかもしれない。人影は君より大きい青年だった。そうだろう。彼より年齢の高い人間は、ここに存在する事ができない。彼より年齢の低いものも、ここにはいられなくなるだろう。老人や成人が溶けてしまったのも、子供がいなくなってしまったのも、その影のせいだろう。子供は頷いた。成人は子供の目を見て、話を続けた。
我々の体は、我々のものではない。頭は考える為にあり、神経は知る為にあり、目は見る為にあり、耳は聞く為にあり、鼻は嗅ぐ為にあり、口は話す為にあり、手は持つ為にあり、足は歩く為にあり、胃は消化する為にあり、心臓は管理する為にある。
そして、全ての体の部分は形に成るのではなく、形に与える為にある。もし影がお前に取り付いたとしても、その声を聞いてはいけない。何処かでうまく捨ててくる事だ。影は我々にとって、また形にとって何の役にも立たない。そう言い終わると、成人は子供の指を切り取った。これは成人の仕事である。
この二人の様子を、老人の形を保存している部屋の窓から一つの人影が覗いていた。子供がそれを見て、声を上げた。成人は、ああ、お前か、と言って、溶けてしまった。子供は部屋から逃げ出し、成人たちがいる食堂に走って行った。
食堂では成人たちが食事をしていた。子供がそこに逃げ込んできた。成人たちは皆食事を止め、子供の方に顔を向けた。人影が子供を追うようにして、入って来た。二十四歳から五十九歳までの成人は、口々に、お前か、奴だ、俺だ、我々だ、と言って、溶けてしまった。十五歳から二十三歳までの成人は、その様子を見た後、また食事を始めた。
影が子供に近づく、子供は助けを求めようと、成人たちを見るが、成人たちは皆食事を続けている。影が子供に近づく、子供は立ち止まったままだ。影が子供に吸い込まれていく。子供は食堂の蛍光灯の下で、くっきりとした、大きな影を作っていた。子供はうなだれて、この部屋を出た。一階の子供たちの部屋に向かった。
一階の廊下を歩いていると、一人の子供が通りかかり、十二歳の子供に影があるのを見つけた。子供は声を上げて逃げ出した。十二歳の子供が部屋につく頃には、全ての子供が、影に見つからないようにと、何処かに隠れてしまっていた。一人で部屋にいてもつまらないので、子供は『プレイルーム』に行った。
プレイルームにも子供はいなかった。ここは最近子供がいなくなった所だ。部屋にあるテレビをつける。画面に砂漠が映り、子供と影はこの部屋から消えた。




