二-一
No.17
その病院は、暗い通りにあった。街灯が立っていて、その明かりに照らされ、一つの人影が移動して、病院の門をくぐった。
その病院は、大きな総合病院で、様々な病人が入院していた。医者は一人も居らず、ただ患者だけが居た。患者は溢れかえり、看護する人間もいなかった。患者は患者同士、助け合い、日々過ごしていた。
また、この病院の施設内には学校があり、多くの子供たちが学校に通っていた。学校に教師は一人も居らず、ただ生徒だけが居た。生徒たちは毎日学校に行くが、教える人間がいなかった。生徒は生徒同士教えあい、時間が経つと、病院に帰っていた。
この病院にいる者は、二種類に分けられる。人間と形だ。人間とはこの病院の患者である。患者は三種類に分けられる。老人と成人と子供である。彼らは年をとらず、老人は老人のまま、成人は成人のまま、子供は子供のままである。彼らの病気は治る事はなく、時間が経つにつれて、徐々に進行し、体が変化する。そして体の変化が止まる時に、一つの形になる。形は様々だ。形とは人間の変化したものだ。形は人間の食料である。人間は形になり、形は人間に食われる。人間はいつの間にか増え、そしていつの間にか形になるのだった。
老人は主に子供の形を食し、成人を傷つける。成人は主に老人の形を食し、子供を傷つける。子供は主に成人の形を食し、老人を傷つける。傷をつけると、変化が早いからだ。変化が早いと、形になるのも早い。しかし、最近は、傷をつけても形にならず、体が溶けるように変化し、最後は消えてしまうのだった。しかし、これは患者の仕事なので、互いに傷つけあう。体が溶ける患者が多い中、形だけが、食べられずに余っていた。
今日も子供たちは、病院の中にある、病棟(主に四人部屋)に帰ってきた。さっき帰る途中で、変な奴みたよ。ああ、見た、誰かな。新しい入院患者じゃないの。そうなのかなぁ、何か黒かった。よそから来た奴じゃねえかな。誰が面倒見るんだ。ほっとけばいいよ、そのうち馴染むから。
子供たちは宿題をする。もういいところでしょ、コレ。アフリカ、北アメリカ全部で六個目だよね。アジアとヨーロッパに分かれる。何コレ。俺も教えてあげたいけど、誰かに聞けば良かったな。そういえば、またいなくなったんだよね。そうだ、これで七人目だ。もうあそこには入らない方がいいかな。今度俺が見てこようか。止めたほうがいいよ。段々皆いなくなるなぁ。
一階にあるこの子供たちの部屋を、一つの人影が窓の外から眺めていた。彼は子供たちと話したかったが、医者の話(医者ではないが)を思い出していた。彼は自分が影の様になってしまったのを知っていた。そして彼はここにいる子供たちの内の誰かの影である事を理解していた。どの様に人間の影になるか考えていた。この病院にいる全ての患者には影が無い。
この部屋にいる子供たちは、下から九歳、十歳、十二歳、十四歳だった。この子供たちの内の誰かではあるのがわかっていたが、特定できないのでしばらく見ていた。子供たちは、宿題をやめ、ゲームをし始めた。彼は自分の事のように感じていた。気がついたら、この子供たちのいる四人部屋の中にいた。
子供たちは、驚き、逃げ出した。彼も驚き、逃げ出した。窓を抜け出し、外に出た。窓の外は中庭になっている。外は暗闇なので、彼の体は、その中に溶け込み、わからなくなった。
彼は四人の子供たちの中に、自分である影の主を特定する事ができた。それは十二歳の子供だ。そして彼は自分が二十四歳で自殺した事を思い出した。




