のぞかないでね!
~吉本side~
榊原くんが住んでいるらしいアパートは広くはないけど小綺麗な所だった。
「何にもないけど休んでおきなよ。」
「うん。ありがとう。」
「じゃあ、僕ちょっと台所にいるけど、ゆっくりしててね。他の部屋まわっても良いよ。
あ、でも、一番奥のプレートがかかってる部屋はのぞかないでね!………恥ずかしいから。」
「分かってるよ。」
それからはお言葉に甘えてくつろいだ。そうしたら少しずつ落ち着いて来たので、もう一度冷静になって考えてみる。
深瀬くんは2週間前から学校を休み始めた。
その時にはすでに行方不明になっていた。
そして、おばさんはそれを知られたくなかったから、高熱とウソをつき、隠し続けた。
でも、結局はその不安感とストレスにより倒れ、救急車に運ばれた。
とりあえずここまでは整理出来た。でも、問題はここから。
深瀬くんはどこに行ったの?
深瀬くんは無事なの?
犯人はだれなの?
考えれば考えるほど疑問は募り、頭を痛めつけていく。
やっと落ち着いたと思った心がまたジクジクと疼いてくる。
「どう?落ち着いた?」
気づけば榊原くんがすぐそばにいて、ホットミルクを出してくれた。
「あ、ありがとう。」
「にしても、深瀬くんがね………。」
「榊原くんは何か知ってる?」
「いや、何も。引っ越しと同時に深瀬くんのことは忘れるつもりだったからね。」
「そっか…………。」
榊原くんも何も知らないんだ。ますます希望が失われていく。
「大丈夫?」
「……じゃ、ないみたい。」
「………ちょっとさ、気を紛らわすために一つ話をしようか。」
「話?」
「うん。とある男の話なんだけどね。とある国にある貴族の男がいたんだ。。で、その男は何人もの女性と結婚したんだけど、妻たちがみんな行方不明になっていった。」
「なんで?」
「後に分かるよ。それでその男はしばらく出かけることになった時、新たにできた妻に鍵を渡した。そしてこう言いつけた。『どこにでも自由に入っていいが、この鍵のかかった部屋だけは入ってはいけない。』と。」
「入るなって言われると入りたくなるよね。」
「そう。その妻も好奇心の誘惑に負けて、預かった鍵でその部屋を開けてしまったんだ。」
「それで、どうなったの?」
「はい、ここで一旦休憩。」
「えぇー、何で?」
「話の面白い所は後々言いたいタイプだからね。ちょっと、もう一回台所に戻るよ。」
そういって、ニヤリと笑うと榊原くんは立ち上がり部屋をあとにした。
榊原くんはなかなか戻ってこない。
そろそろ彼の言ってた話の続きが気になってきた。
続きを聞こうと榊原くんの様子を見に行くと……………
あ、あれっ。寝てる。台所の机でよく寝れるなあ……。
………………そういえば榊原くん、始めに『プレートのかかった部屋はのぞかないでね』とかいってたっけ。なんかさっきの男の話と似てるなぁ…。
もし、そこで私がその部屋に入ったらどうなるんだろう。
………………………。
あっさりと好奇心に負けた私は、足音を忍ばせて、こっそりとリビングを出て行った。
音を立てないように、ゆっくりその部屋に向かって歩いていると、プレートのかかった部屋が見えた。そのドアの横に、榊原くんのであろうカバンがあった。チャックが開いてるから、全部丸見えになってる。タオルに、水筒に、ノートに………
って、え……………………………??
深瀬くんのノート………?
いやいや、まさか。このノート結構売れてるらしいし、たまたま色も一緒だった、そうだよね……。ねえ、お願いだからそうであってよ……。
自分の考えた可能性を否定出来ないまま、私は吸い込まれるようにそのノートに手をのばした。
そのノートのタイトルには、
『深瀬』と、
長い間会ってない彼の名前が書かれていた。
「……………な…………なん、で……………!?」
何で、深瀬くんの日記を榊原くんが持ってるの?
さらに、前までは空白だったタイトルのところに、
『一文字日記』
と、新たに書き加えられていた。
「…………?一文字でどうやって日記を書くの?」
タイトルの意味は分からなかったけど、もしかしたら、あの日からの日記が書かれているかもしれない。
意を決した私は恐る恐るノートを開いた。