何をしたっていうの。
~吉本side~
あれから3日もしないうちに榊原くんは学校を出て行った。その時も深瀬くんはそこにいなくて、結局2人が顔を合わせることはなかった。
そして、その時から私は違和感を覚え始めた。
「……今日も休み?」
これで二週間目。いまだに深瀬くんは学校を休んでいる。
いくら何でも長すぎる。2日おきにメールを送ってはみたものの、全く返事が返って来ない。
「あの、先生。」
「ん?どうした?」
「深瀬くんは、一体どうしたんですか?」
「………………深瀬ならもうすぐ来るだろう。心配するな。」
心配しない方がおかしいと思う。だって、
なんで先生まで何かを必死に隠そうとしているの?
上手く装っているつもりかもしれませんが、バレバレですよ。誰から見ても挙動不審すぎます。
目は泳いでいるし、手もしきりに服の裾を掴んでいるし、何回髪をかきあげるんですか。
でも、これ以上言ったところで先生は何も話しそうにないので、実力行使に出ることにした。
今日の放課後、深瀬くんの家に行こう。
ホームルームが終わると同時に教室を出て、足早に深瀬くんの家を目指した。
学校から深瀬くんの家まではそれほど遠くないので、ものの数分で着いた。たいして走ってないから汗はかかない筈なのに、私の額には、違った意味の汗が流れていた。
「……救急車……!!?」
最悪の事態を予想してしまい、慌てて否定した。
まさか、そんなはずは……!!
急いで駆け寄ると、誰かが担架で運ばれて行くのが見えた。目を凝らしてみると、
「………おばさん!!!」
間違いない。深瀬くんのお母さんが救急車に運ばれようとしていた。
「おばさん!!どうしたんですか!!?大丈夫ですか!?」
おばさんの側に行こうとしたけど、救急隊員の人に止められてしまった。
「今話しかけるのは危険です。ご家族の方ですか?」
「…いえ。この人の子供の同級生です。」
「……………!すみません。少し、お話しを聞かせていただいてもよろしいですか?」
「え?」
「実は………。」
なんで。
どうして。
深瀬くんが何をしたっていうの。
「実は、こちらのお宅の息子さんが、二週間前から行方不明になっているんです。」
二週間前…………って…………深瀬くんが休み始めた日?
その日から、行方不明…………?
「そのため捜索依頼を引き受けていたのですが、いまだ見つからず、挙げ句お母様が睡眠不足とストレスにより倒れたようで……。」
「そう、ですか…。」
「もし、何かありましたら、こちらにお伝えください。」
「分かりました…………。」
どうしてよ。
どこに行ったの?
連絡くらい入れてよ。
会いたい。
深瀬くんに会いたい…。
その日の晩は、ずっと泣き続け、一睡も出来なかった。
いくら辛くても時は過ぎる。学校帰りに塾に行かないといけないので、憂鬱な気持ちを抱えながら行った。けど、その日の内容は全く頭に入ってこなかった。
思ったより塾が長引き、私の心を映し出しているかのような暗い空の中、私は歩いていた。
もし、このまま深瀬くんが帰ってこなかったら……?
そんなネガティブ思考のみが頭の中をぐるぐる回る。
深瀬くんが無事じゃなかったら、自分の身もどうなっても構わないと考え始めた。その時、
「あれ?吉本ちゃん?」
「……………さ、榊原くん?」
ついこの前引っ越して行ったはずの榊原くんがそこにいた。相変わらず手は包帯に覆われている。
「どうしてここに?」
「いやー、それがね。引っ越しの手続きの記入欄に不足があったみたいで、まだ完璧に引っ越せてないんだ。それで仕方ないから近くのアパートを借りてたんだよ。」
「あ、そうなんだ……。」
「………?吉本ちゃんなんか暗いよ。何かあったの?」
「…………良かったら、聞いてくれる?」
私は榊原くんが引っ越してから今までの経緯を事細かに話した。やっぱり、榊原くんは信じられないといった顔をしていた。
「……う、ウソでしょ……?深瀬くんが?」
「うん。認めたくないけど……ホントの話…。」
「そんな……………。」
「だから、私、どうしたら良いか分かんなくて……。」
榊原くんがいるにも関わらず、私の目からは涙が止まらない。
「………取りあえずさ、僕ん家おいでよ。まあ、家っても、ボロっちい古アパートだけどね。」
「……うん。そうする。」
今は何も考えたくなかった。とにかく休める場所が欲しかった。携帯を開いて、お母さんに『ごめん。遅くなる。』とだけ打つと、榊原くんのあとをついて行った。