女はつらいよ!? 苦労は何処まで続くのか
お久しぶりです。蒼留でございます。
何かに熱中すると他のことをしなくなるという困った癖と締め切りとテストが重なりました。
今回も引き続きハチャメチャですが、楽しんでいただけたら幸いです。
沈黙が流れる実験室。
中には、ルキ、ミリア、ラギウスの姿があった。―-といってもラギウスは例のごとく女のままである。
ただでさえ白い肌を更に白く染め、呪文のようにブツブツと何かを呟いている事からして、彼の精神状態が思わしくないというのは誰が見ても分かるだろう。
ディーラが『しばらくは戻れない』と言ったあの後、ミリアがとんでもない爆弾発言をしてしまったため、室内のムードはとことん暗い。というか黒っぽい何かが渦巻いている。主にラギウスの周りに。
そんな中。
「……ねぇっ」
と、口を開いたのは、こういう空気が大っ嫌いな、元気娘のルキである。
『そっとしておいてくれ』『空気読んでくんないかな』そう言いたげな二人の視線が、ゆっくりと彼女に向けられる。
この空気を何とかしたいと思い切って口を開いたルキだが、正直なところ何を話そうかなんてこれっぽっちも考えていなかった。“やっちゃった感”満載なところにこの視線。彼女の会話力でどう切り抜けられようか。
「ふぇ……」
おもいっきし視線を宙に泳がせ、なんとか話題を見つけようと必死なルキ。
それを諦めたかのような冷たい眼で眺めるミリアとラギウス。
……………………………………
再び沈黙。
はっ! と、ルキは分かりやすく顔を上げた。どうやら名案が思い浮かんだようだ。
誇らしげな顔――俗に言うドヤ顔――で彼女が発した言葉は――
「外、出てみないっ?」
あまりにも駄案すぎた。
***
ラギウスは絶対嫌だと言い張ったものの、こんな所に居たくないと思っていたミリアの強引――もとい、もっともらしい説得によって、渋々出ることになってしまった。……女子の力、強し、と言ったところか。
ちなみに、もとがかなりの美形なだけあり、女になったラギウスは、ものすごく綺麗だった。
しっとりと独特な輝きを放つ銀色の髪は、サラサラと体の動きについていき、フワフワとそよ風になびく。スラリとのびた長身に、細く長い手足。それでいて出るところはきちんと出ているという、なんとも理想のスタイル。二重だが切れ長の目には、長いまつ毛が映えていて、瞳は髪の毛と同じ銀色をしている。スッととおった鼻筋に、白い肌に際立つほのかにピンク色をした柔らかそうな唇。そこから出るのはきつい言葉だが、それさえも女神のお告げのように聞こえる、うっとりするような声。クールな表情がまた、なんとも言えない神秘さをかもし出していて――
挙げていけばきりが無いほど、美点は次々と挙がっていく。たとえ女でも、彼女にしたいと思うような、街中を歩けば誰もが振り返るような、そんなルックスを、ラギウスは今持っているのだ。
――いっそのことそのまま女でいたら?――
ミリアの爆弾発言も、きっとみんなが思うようなもので。
だがしかし当の本人は気に入らないようである。“男としてのプライド”というものがあるのだろう。
「そんなのしらないっ!! だからこれ着て!!!!」
なんとも理不尽なことを言いながら、ミリアはなにやら服を着させようとしている。……もちろん服はちゃんと着ているが。
ミリアが手に持っているのは、どうやら女物の服のようだ。
「ンな恥ずかしいもの、着れるかっっっっ!!」
ラギウスのキャラが結構変わっている。『恥ずかしいもの』と、彼はいったが、確かに恥ずかしいといえば恥ずかしい服だった。
なんだかふわふわひらひらした生地がロングワンピースのようになっていて、深くスリットが入っている。腰には太目のベルト、更に要所要所にさりげなくフリルがついていて、ルキにはなんというかとても、乙女チックな服に見えた。
私だったら絶対に着ない。と、どこかで考えながら、ルキはボーっと二人の様子を眺めていた。
……なんでこんなことになったんだろうか……
言いだしっぺの彼女にすら分からなくなるほど、今の状態は混沌としていた。
外に出る。ただそれだけのことで、何故このような事態になってしまったのか。ミリアはどうしていつもの服のまま出てはいけないと言うのか。分からないことだらけで、彼女の頭はパンク寸前だったその時――
「勝った!!!!!!!」
ミリアの勝利の叫びで、ようやく事態が収まったことに気がついた。
……横で、例の服を着させられたラギウスがぐったりと落ち込んでいることを見ると、収まったといっていいのかは分からないが。
――何はともあれ、ようやく外に出れることになったのは、紛れも無い事実である。
「――あ」
そういえば、と、ルキは口を開いた。
「さっきディーラさんが来て、『ごっめ~ん、多分一週間は戻れないわ~☆』とかなんとか言って去って行ったよ。なんか、思ったより服用量と持続時間が長かったんだってさー」
「ア、ソウ」
「……ラグーーーーッッ!?」
完全に呆けてしまっている。
これはやばい、と二人は急いでラギウスを外へと連れ出した。
何をするでもなく三人が大通りを歩いていると……
「あ、あにょっ、そこの銀髪のお嬢さんっ」
ラギウスが声をかけられた。
「お嬢さんって言うな」
呆けていても、声はちゃんと聞こえているようである。
ルキはとりあえず一安心して、声の主のほうへ振り返った。
おもいっきり噛んだその男は、みると結構な金持ちのようで、成金臭がぷんぷんした。黒っぽい髪に黒っぽい眼と、ルックスはそこまでよくはない。見るからに何か言いたそうな顔をしている。
「なんでしょうか?」
先ほどから黙りこくって彼を睨みっぱなしのラギウスに代わって、ミリアが尋ねた。
「はっ、ひゃいっ」
人見知りなのか、それともラギウスの眼光に射すくめられているのか、噛み噛みの彼はとりあえず自己紹介を始めた。
「ぼぼぼぼぼ僕はっ!ああああああのっ」
どもりまくりで聞き取りにくいので、話を要約すると――
彼の名はフェイル。近くにある大豪邸に住んでいるようで、聞いていくと成金じゃないらしいことが判明したため、ルキとミリアは心の中で謝罪した。
なんでも、親が勝手に縁談を持ち込んできて、それを断るために苦し紛れに『好きな人が居る』といってしまったのだそうだ。『どんな娘だ』と尋ねる親に、適当に『こんなに美人だ』説明したのだが、本人を連れてくれるまで信じないと言うそうで、しかし、口から出まかせで言った美人が居るわけもなく。とぼとぼと歩いていたところに、ちょうどそのとおりの美女――ラギウスが歩いていたと言うのだ。ならどうしてそんな美人だと言ったか、と聞くと、それくらいじゃないと断れなかったのだとか。とりあえずこれは神のおぼしめしだ! と勢いで話しかけたのだそうである。
はっきり言って迷惑千万。『親に紹介させてくれ』とせがむフェイルを見捨てて、さっさと行こうとしたその時。
「金貨百枚、いえ、五百枚出しますからぁっ!」
その一言でミリアの眼の色が変わった。既視感である。
「良いでしょう、お受けしますわっ」
ラギウスの意見なんて聞く耳持たず、即座にOKしてしまった。
「良くないっ! 全然良くないぞ!!」
「そーだよっ! こんな人にあげるなんて!!!!」
なぜかラギウスと一緒になって熱心に説得しようとするルキの頑張りも空しく、結婚式まで挙げ、その後はおさらばという責任もなにもあったもんじゃない契約が結ばれてしまったのだった。
ディーラのところに来てから、本当に不運である。
「前金で金貨五十枚、残りは後で、ということで」
問題が解消される事に安心しきったフェイルとは対照に、これ以上は本当にないと言うほど絶望した表情のラギウス。
ここまでされて、なんで逃げ出さないんだろうなぁと心底同情するルキだった。
ホントーに苦労する子だねーラギウスくんー
かわいそうになってくるよー