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匂の宮、馨を追い詰める
御徒町一族は美女揃いで、しかも光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄です。
匂の宮は馨の様子を見て確信しました。
(やはり父上は何かしていたのか?)
はらわたが煮えくり返りそうになる匂の宮です。
馨も匂の宮が怒りに震えているのを感じ、思わず後退りしました。
「父上、一体何をなさったのですか?」
匂の宮はそれでも何とか怒気を抑えて尋ねました。馨は顔を引きつらせて、
「何の事だ? 私には何もわからぬが?」
とぼけようとしました。すると匂の宮はスッと立ち上がり、
「それでは、街の噂を太政大臣様にお伝え致すしかありませぬ」
馨の顔色が変わりました。
「待て、匂の宮! それだけはならぬ」
馨は匂の宮に縋りつきました。
太政大臣に話されれば、今度こそ朝廷から追い出されると思う馨です。
「ならば、正直にお話しくだされ」
匂の宮はグッと顔を近づけて言いました。
「わ、わかった」
馨は居ずまいを正して言いました。