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柏木の敗北
御徒町一族は美女揃いで、しかも光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄でもあります。
柏木は震える右手を震える左手で押さえつつ、筆を動かしました。
しかし、お題の「暁」という字には到底見えないものができあがってしまいました。
「くう……」
悔しくて涙が零れそうな柏木ですが、なんとか堪え、筆を置きました。
「そこまで」
立会人の貴族が告げ、匂の宮と柏木は頭を下げて、席を離れました。
見届け人の五人がまず両者の書を確認し、太政大臣が帝の元に届けました。
「うわ、何これ?」
全く悪気なく、中宮の渚が言いました。それを聞いて、柏木は項垂れました。
(終わった……)
柏木は瑠里が見ていると知っただけで動揺してしまった自分を責めていました。
内大臣の馨が嫡男の匂の宮を勝たせるために仕掛けさせた事とは夢にも思っていません。
帝は悲しそうな顔で太政大臣を見て頷きました。
太政大臣はそれに頭を下げて応じ、
「匂の宮の勝ち」
それだけ言いました。