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勝負の行方
御徒町一族は美人揃いで、光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄です。
柏木は手の震えが止まらないまま、筆を取り、墨を付けました。
小刻みに震えているため、墨が硯から飛び散り、辺りを汚してしまいました。
(如何したのだ、柏木?)
左京は柏木の様子がおかしい事にようやく気づきました。
こんな時もヘボな男だと思う地の文です。
「うるさい!」
率直に意見を述べただけの地の文に切れる左京です。
(柏木様!)
瑠里は涙ぐんで柏木を見ています。
(瑠里様!)
その視線に気づいた匂の宮は嫉妬しました。
(瑠里様はもしや柏木に心惹かれているのか?)
「ならばどうあっても負ける事はできぬ」
匂の宮は筆に集中しました。
「そうなんですか」
それでも樹里は笑顔全開です。
(よし、いいぞ! 柏木はとても筆を運べる状態ではない! この勝負、匂の宮に勝ちだ)
馨は心の中で歓喜しました。
(馨様は何をお考えなのか?)
正室の美子は夫を訝しそうに見つめました。