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柏木、緊張する
御徒町一族は美女揃いで、しかも光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄でもあります。
瑠里は柏木の様子がおかしいのに気づきました。
(如何なさったのかしら、柏木様は?)
まさか、自分に見られている事を知って舞い上がっているとは夢にも思わない瑠里です。
柏木は瑠里の視線を感じたまま、自分の席に正座しました。
身体中の感覚がいつもと違ってしまい、墨をする手が小刻みに震えています。
(うまくいったようだな)
その様子を見て、馨はニヤリとしました。
(父上は何をお笑いになっているのだ?)
馨の笑みに違和感を覚えた匂の宮は首を傾げました。
(柏木殿は硬くなっているようだ)
匂の宮は柏木のぎこちなさに気づきましたが、よもや自分の父親の差し金でそうなったとは知りません。
「では、お題は暁です。始めてください」
立会人の貴族が告げました。
(柏木、頼んだぞ!)
左京は心の中で祈りました。
「そうなんですか」
樹里はそれにも関わらず笑顔全開です。