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勝てない柏木
御徒町一族は美女揃いで、しかも光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄です。
柏木の操る馬はどんどん匂の宮の馬を突き放して行きました。
「おのれ!」
匂の宮は焦って手綱を強く握りしめました。
「おい」
その様子を見ていた匂の宮の実の父親である馨は配下の者に目配せしました。
数人の男が頷き、姿を消します。
柏木の乗る馬は早くも最初の角を曲がりました。すでに匂の宮の馬ははるか後方に小さく見えるだけです。
その時でした。
柏木の馬がいきなりいななき、柏木を振り落としてしまいました。
「くう……」
柏木は軽い打ち身ですみましたが、馬はどこへともなく駆け去ってしまいました。
「お先に!」
匂の宮は柏木を一瞥して去りました。
「くそう!」
柏木は地面を拳で叩きました。
馨の配下の者達はそれを見てニヤリとしました。
終点で待っていた瑠里は、柏木ではなく、匂の宮が先に戻ってきたので驚きました。
「柏木様は落馬されたそうです」
侍女の茜が告げました。