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柏木、匂の宮に勝負を挑む
御徒町一族は美女揃いで、しかも光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄でもあります。
翌朝、柏木は匂の宮の仕事場に行きました。
「匂の宮殿、瑠里様を懸けて勝負しましょう」
柏木が言いました。匂の宮は、
「私はもう瑠里様と夫婦にはなれませぬ。左府様がお怒りなのです」
事情を説明しました。
「何と……」
柏木は喜びそうになりましたが、それは違うと思いました。
(匂の宮殿が左府様に婚儀を断られたとしても、私が勝った事にはならぬ)
柏木は左京に直談判する事にしました。
(その前にお会いすべき方がいらっしゃる)
柏木は意を決してその人物の部屋に行きました。
左京は柏木が目通りを申し出ていると聞き、会う事にしました。
「瑠里様と夫婦になりとう存じます」
柏木は深々と頭を下げて言いました。左京は微笑み、
「其方が噂の柏木か。よい。許す。瑠里と夫婦になりなさい」
「その前にお願いしたき義がございます」
柏木は左京を見ました。