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左京、前言を撤回する
御徒町一族は美人揃いで、光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄です。
左京は憂鬱な顔で参内しました。
「如何なさいましたか、左府様?」
右大臣の藤原慶一郎が声をかけました。
「少々寝不足で……」
苦笑いして応じる左京です。
「お盛んですな」
右大臣はニヤリとしました。
「ははは」
左京は否定も肯定もせず、自分の部屋に入りました。
(瑠里……)
夢を思い出し、涙ぐむ気持ち悪い父親です。
「うるさい!」
地の文の軽い冗談には機敏に反応して切れる左京です。
左京は悶々として仕事を終えました。
「左府様!」
牛車に乗ろうとしているところを匂の宮に呼び止められました。
(一番会いたくない男に)
左京は胃が痛くなりそうでしたが、無視する訳にもいかず、振り返りました。
「瑠里様との婚儀の事なのですが……」
匂の宮が嬉しそうに切り出すと、
「なかった事にしてくれぬか」
左京はサッサと牛車に乗りました。
唖然とする匂の宮です。