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寝ても覚めても
御徒町一族は美女揃いで、しかも光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄です。
瑠里に恋焦がれる柏木は、眠っていても起きていても、瑠里の笑顔が頭から離れない程になっていました。
「手が止まっておるぞ」
そのせいで、仕事もおろそかになり、たびたび叱責を受ける始末です。
「申し訳ありませぬ」
ハッと我に返り、謝罪する柏木です。
そんな柏木を親友である匂の宮は心配して、休憩の時に声をかけました。
「柏木殿、お加減でも悪いのですか?」
匂の宮に尋ねられた柏木は、
「いえ、別に」
作り笑顔で応じ、仕事に戻っていきました。
柏木が瑠里に恋をしている事を知らない匂の宮は、彼が病ではないかと案じました。
そして、柏木の父親である大納言に会い、尋ねました。
すると、大納言は苦笑いをして、
「心遣い忝いが、彼奴は只の恋煩い故、案ずる事はない」
「そうなんですか」
思わず樹里の口癖で応じた匂の宮は全てを察しました。