93/1080
左京、ようやく思い出す
御徒町の樹里は都で並ぶ者のない美人で、光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄です。
左京が昔、樹里と帝の姉弟を助けた事がありました。
でも、バカで貧乏で何の才覚もない左京は全然それを覚えていませんでした。
「何でそこまで言われなきゃならないんだ!」
左京は、これでもかと言葉責めをする地の文に切れました。
「左京様は私と弟が池で溺れているのを助けてくださったのです」
樹里が笑顔全開で言うと、ようやく左京は思い当たりました。
(そう言えば、随分と昔、御所の池で溺れている女の子と男の子を助けた事があったな)
貧乏でもそれくらいの事はできるという事です。
「貧乏貧乏としつこいぞ!」
貧乏貴族の左京は理不尽に地の文に切れました。
「左京様がお助けくださらなかったら、私も弟もこの世におりませんでした」
樹里は涙ぐんでいます。左京は危うく鼻血を出しそうです。
「もう十五年程前です。そんな昔から樹里様は私の事を?」
左京も涙ぐみました。