911/1080

馨、行動開始する

　御徒町の樹里は都で並ぶ者のない美人でしたが、今ではその娘達も同じくらい美人です。

　内大臣の馨の嫡男である匂の宮は、左京の嫡男である護を廊下の隅に連れて行き、父の企みを話しました。

「杉下家の没落？」

　護は目を見開きました。匂の宮は悲しそうな顔になり、

「はい。父は五反田家を宮中一の勢力にするつもりなのです。何を血迷っているのか……」

　護は匂の宮に同情しました。護を養子に迎えるという事は、匂の宮を嫡男にするつもりはないという事だからです。

「我が母の厚子は実際には平（たいらの）特盛（とくもり）公の娘ですが、形式上は下級貴族の娘です。その子である私は、五反田家の跡取りに相応しくないという事なのです」

　匂の宮の話を聞き、温厚な護も激怒しそうになりました。

「父に話し、内府様を諌めてもらいます」

「よろしくお願い致します」

　護は匂の宮と別れると、左京の部屋へ行きました。

　そうとは知らない馨は護の部屋に向かっていました。