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左京と馨
御徒町の樹里は都で並ぶ者のない美人で、光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄です。
馨は邸を出ると、そのまま牛車で樹里の邸に向かいました。
(左府様と話をして、早々に二人の縁談をまとめてしまおう)
エゴ剥き出しの馨です。前世で好きな人と添えなかったせいでしょうか?
「前世の話はするな!」
正確な推測をしていた地の文に切れる馨です。
左京はこんこんと側室の龍子達に責められ、ヘトヘトになっていましたが、
「内府様がお見えです」
侍女の葵の言葉に救われました。
「客間にお通ししろ。すぐに参る」
逃げるように部屋を出ました。
「内府様がお帰りになりましたら、また続きを致しましょう」
麻耶が言いました。顔を引きつらせ、廊下を歩く左京です。
(何用であろう?)
左京は馨が待つ部屋に行きました。
「如何なさいましたか、内府殿?」
左京が尋ねると、馨は微笑んで、
「瑠里殿と匂の宮の事です」
途端に機嫌が悪くなる左京です。




