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吏津玖の妨害
御徒町の樹里は都で並ぶ者のない美人で、光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄です。
護が仕事に勤しんでいる頃、元猫又の吏津玖は樹里の邸の屋根裏に密かに作った隠れ家にいました。
「あの男を呪ってやるにゃん」
ニヤリとして呟く吏津玖です。陰湿だと思う地の文です。
吏津玖は前足を器用に使って、紙に呪文を書きました。
(好き者になって、皆に嫌われるといいにゃん)
恐ろしい呪いをかけようとしている吏津玖です。
「こんな所で何をしているの、猫?」
そこへいきなり現れる侍女の茜です。
「うへえ!」
吏津玖は驚きのあまり、少し漏らしてしまいました。それでも何とか作り笑顔になり、
「あはは、実は茜しゃんに恋文を出そうと思っていたにゃん」
茜は目を細めて、
「見え透いた偽りを申すな、猫。呪文を書いていたのであろう?」
真実に迫りました。
「そこまで見抜かれたのなら、仕方ないにゃん!」
吏津玖はその呪符を茜の額に貼り付けました。