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樹里、出産する
御徒町の樹里は都で一番の美人で、光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄です。
左京が麻耶の部屋の前まで行くと侍女の茜が立ち塞がりました。
「麻耶様、産気が強くおなりです。殿方はご遠慮くださりませ」
あっさり入室を拒否されてしまう左京です。
一番会いたかった麻耶に会えなくて悲しみに打ち拉がれる左京です。
「そのような事はない!」
話を盛った地の文に切れる左京です。
「そうか」
項垂れて去る左京です。
「父上、母上が!」
そこへ血相を変えて長女の瑠里が走って来ました。
「何!?」
その言葉に顔色を変え、すぐさま廊下を走り出す左京です。
「樹里様!」
左京を追いかける瑠里ですが、十二単のせいで追いつけません。
(父上はやはり母上を大切に思われているのね)
そんな左京を見てホッとする瑠里です。
「樹里様!」
左京が駆け込むと、樹里はすでに出産を終えていました。
「左京様、おめでとうございます。たった今、お生まれです」
侍女の葵が告げました。