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慶一郎、感動する
御徒町の樹里は都で並ぶ者のない美人で、光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄です。
慶一郎はまどかが産んだ赤子を見つめているうちに、号泣してしまいました。
「兄様、如何なさいましたか?」
まどかが驚いて尋ねました。すると慶一郎は涙を拭って苦笑いし、
「いや、何でもない。ちょっとな」
そう言って、誤摩化しましたが、潤んだ目で上目遣いに自分を見上げているまどかを見て、
(おおお!)
一気に欲情してしまいました。外道過ぎると思う地の文です。すると、まどかは顔を赤らめて、
「兄様、お願いがございます」
その言葉にハッとなり、思い留まる慶一郎です。
(いかん、いかん。私は何を考えているのだ? まどかは死にかけたのだぞ。そんなまどかに再び子を産ませようとするとは……)
自分で自分が信じられない慶一郎です。ところが、
「もう一度、兄様のお子を産みとう存じまする」
まどかは恥ずかしそうに言って、慶一郎の手を両手で包み込みました。