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慶一郎、まゆ子に脅される
御徒町の樹里は都で一番の美人で、光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄です。
藤原慶一郎はまどかの容態が快方に向かったので、ホッとしました。
「もしまどか様に何かあれば、ちょん切ります」
正室のまゆ子に真顔で言われ、震え上がったのを思い出しました。
(もうこれ以上、まゆ子を怒らせる事が起きませんように)
慶一郎は神仏に祈りました。
「瑠奈様が女の子をお産みになったそうです」
「翠様が男の子をお産みになったそうです」
侍女が余計な事をまゆ子に告げました。
「瑠奈様と翠様とはもう会わないとおっしゃいましたよね?」
あらゆるものが凍りつきそうな声でまゆ子が言いました。
「ひい!」
慶一郎は漏らしそうになりました。
「此度はまどか様に免じて目を瞑りますが、次はちょん切りますので、お覚悟を」
まゆ子は大きな鋏を動かして去りました。
(少し漏れたかも知れない)
涙ぐむ慶一郎です。




