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潜むものの正体
御徒町の樹里は都で並ぶ者のない美人で、光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄です。
帝は由里の邸の一番奥にある祈祷の間に通されました。
「ここであれば、害が及ぶ事はありませぬ」
由里が言うと、太政大臣が、
「由里殿、お話願えませぬか?」
痺れを切らせて言いました。由里は太政大臣を見て、
「遥か南の国より魔物が迫っております。お上にはこちらでお留まりくださいますように」
「魔物?」
内大臣の馨が反応しました。
さすが、元馬です。
「前世の話は禁ずる!」
昔話が大好きな地の文に切れる馨です。
「如何なる事なのですか?」
帝は眉をひそめて尋ねました。
「私にもわかりませぬ。今まで会った事がない魔物です」
由里が真顔で言いましたが、
「大丈夫よ、帝君。由里おばさんにかかれば、どんな妖怪も倒されちゃうよ」
自由の女神の渚が言いました。由里は苦笑いして、
「中宮様、此度はそうはいきませぬ」
太政大臣は馨と顔を見合わせました。




