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太政大臣と護
御徒町の樹里は都で並ぶ者のない美人で、光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄です。
護は馨の邸を出て、御所に向かいました。
(母上は泣いていたように見えたが、気のせいだろうか?)
護は実の母である美子の目が潤んでいるのを見てしまったのです。
(母上は私が実の子だとご存じだから、泣いていたのか?)
そう考えると、妙に気遣う馨の言動も合点がいきました。
(馨様は愉快ではないのだろうな……)
複雑な思いになる護です。
「護殿、太政大臣がお呼びです」
五反田の太政大臣の付き人が告げました。
「はい」
護は畏まって、実は義理の祖父である太政大臣の部屋に行きました。
「よう参ったな、護。もそっと近くへ」
太政大臣は嬉しそうに護を見て言いました。
実は、樹里からの文で、護が真相を知っている事を知らされている太政大臣です。
「お前も苦しかろう。困った事があったら、私の所に来なさい」
太政大臣は言いました。




