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樹里、左京を看病する
御徒町の樹里は京の都一の美女です。
たくさんの男達がやって来ては求愛しました。
「そうなんですか」
樹里は一言返すだけで、ほとんどの男は撃沈したと思って帰りました。
貧乏貴族の左京の君は樹里に小首を傾げられて耳から鼻血を噴き出し、気絶しました。
「しっかりなさいませ」
樹里は左京が病気だと思い、侍女のはるなに薬を持って来させました。
「そんな汚い男は放り出せばよいのです」
非情なはるなが言いました。
「そうなんですか、き……」
樹里が言いかけると、
「私ははるなです、姫様」
慌てて訂正するはるなでしたが、
「奇麗なはるなさん」
突然誉められ、動揺しました。
「いやあ、それほどでも」
クネクネして照れる気持ち悪いはるなです。
「やかましい!」
はるなは感想を率直に述べた地の文に切れました。
「私にはとても素敵な方に見えますよ」
樹里は左京の耳の回りを布切れで拭きながら言いました。
(姫様の美の基準がわからない)
唖然とするはるなです。