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馨の心配
御徒町の樹里は都で一番の美人で、彼の光源氏の君の血を引く由緒正しい家柄です。
五人衆の箕輪の大納言は樹里の侍女であるはるなに見とれたせいで、許嫁のまゆ子姫の必殺平手を食らい、気絶してしまいました。
代わりに詮議を始めたのは、同じ五人衆の宮川の少将です。
少将は稚児趣味の危険人物で、樹里よりもはるなに興味がありました。
(樹里様もお美しいが、やはり侍女の方が……)
全然詮議にならないと思う地の文です。
(五人衆はロクでもない連中ばかりね)
帝の妃候補でもある美子姫は溜息交じりに思いました。
そんな五人衆の筆頭である馨は詮議に参加せず、病に臥せっている母の澄子の所におりました。
「母上、先程、関白様の使いの者が、良い薬師を集めて薬を作らせていると伝えて参りました」
澄子は病の床から顔を少し上げ、
「そうですか。お優しい方ですね」
澄子は言いました。関白の藤原道草の計略とも知らずに。