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道草、動く
御徒町の樹里は都で並ぶ者のない美人です。
そんな樹里を側室にしようと目論むおっさんがいました。
朝廷の最高権力者である藤原道草です。
決して、元109のショップ店員の夫ではありません。
「左京? 何者だ、そやつは?」
道草は顎鬚を撫でながら側近に尋ねます。
「位の低い貧乏貴族です。金を渡せば引き下がりましょう」
側近は頭を下げて言いました。
「そちらはそれでよいが、五人衆が関わっているのは面倒だな」
道草程の実力者でも、左大臣の子息の馨を筆頭とする五人衆はないがしろにはできません。
「左大臣を黙らせる手筈を整えよ」
道草は大村美紗のような顔で命じました。
「は!」
側近は深々と頭を下げました。
大通りに面した大きな邸に先帝の一番の寵愛を受けたと勘違いしている女性が住んでいます。
「先程より悪口が聞こえるぞえ」
女性の名は大村の御息所です。
「空耳ですよ、母上」
娘のもみじが言いました。