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藤原道草

　御徒町の樹里は都で一番の美人です。

　しかもあの光源氏の君の血を引き、その上先代の帝とも繋がりがあるようです。

　樹里の侍女のはるなは実は密命を受けて樹里を守る忍びでした。

「芸人がお父さんですか？」

　樹里が尋ねました。はるなは項垂れながら、

「違いますし、その方は娘ではなく元奥さんです」

「そうなんですか」

　樹里は笑顔全開で応じました。

「藤原（ふじわらの）道草（みちくさ）公は今上帝（きんじょうてい）の外祖父に当たり、朝廷では一番の力の持ち主です」

　はるなは声を低くして言いました。

「栃赤城ですか？」

　樹里が尋ねます。

「その力じゃありませんし、古過ぎて誰も知らないお相撲さんです」

　はるなは涙目で樹里に告げました。

「そうなんですか」

　樹里はそれでも笑顔全開です。

「道草公は樹里様をご自分の側室にし、妃候補を産んでいただくおつもりのようです」

　はるなが言うと、左京が仰天します。

「何だと！？」

　突然の強敵出現に色を成す左京です。