289/1080
左京の不安
御徒町の樹里は都で並ぶ者のない美人で、光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄です。
左京は美子姫を送り、樹里の邸に戻りました。
「もう帰って来ないと思ったにゃん」
何故か庭先に元猫又の吏津玖がいました。
しかし、左京は無視しました。
「こら、無視するなにゃん!」
吏津玖が怒りますが、左京は邸に入ってしまいました。
「猫さん、旦那様はお疲れなのですよ」
不意に後ろから樹里に抱き上げられ、至福の顔をする吏津玖です。
「にゃあん」
「そうなんですか」
樹里は吏津玖を抱えて邸に入りました。
「樹里様、赤子の行方がわかりました」
樹里の侍女で忍びでもある茜が言いました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
「どこなのだ?」
左京が茜に詰め寄りました。茜はビクッとして、
「鞍馬山です」
「牛若丸ですね?」
樹里が尋ねました。
「まだ生まれていません」
茜は項垂れました。
「そうなんですか」
樹里はそれでも笑顔全開です。