222/1080
髪長姫の思い
御徒町の樹里は都で一番の美人で、光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄です。
左京をジッと見ていた姫は通称「髪長姫」。何と加藤の中将の妹君です。
姫は自分の容姿に自信がないので只一つの自慢である艶やかな黒髪を長く伸ばし、できるだけ顔を隠して暮らしています。
多くの殿方は姫を「絶世の美女」と妄想し、何とかその心を射止められないものかと競いました。
それでも姫は決して殿方に会う事はありませんでした。
そんな姫が心を動かされたのが、貧乏でろくでなしの左京です。
兄の中将が驚くのも無理はありません。
「はあ……」
いつものように姫は自分の長い鼻先を触り、溜息を吐いていました。
「何を塞ぎ込んでいるにゃん」
そこへ長靴を履いた猫が現れました。
「話が違うにゃん!」
勝手に時代と国を変えてしまった地の文に吏津玖は切れました。
「誰かに悪口を言われたような……」
左京は辺りを見渡しましたが、
「気のせいか」
また歩き出しました。