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美子姫の焦燥
御徒町の樹里は都で並ぶ者のない美人で、光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄です。
左京と一度だけ契ってしまった美子姫は左京の子を身籠り、それを誰にも教えずに過ごしていました。
しかし、姉の弘徽殿の女御は手を尽くして美子の相手の男を捜させています。
(このままではいずれ左京様に辿り着かれてしまう)
美子は悩み、焦りましたが、どうする事もできません。
(いっそこの身を……)
自ら命を絶とうと思い立った美子ですが、これから生まれる命には何の咎もないので思い留まりました。
(左京様……)
美子は窓から見える月を見上げて左京を思いました。
大村の御息所は帝が不在なので消沈して邸に戻りました。
(お上はどちらに行かれたのか……)
部屋で項垂れていると、
「今晩は」
自由気ままを絵に描いたような渚が訪れました。
「もみじ、妾は病で臥せっておると告げよ。後は頼むぞえ」
御息所は渚が苦手なのです。