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盛られる怪談
御徒町の樹里は都で一番の美人で、光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄です。
都のあちこちで広がりつつある怪談は、巡り巡ってまた樹里のところに届きました。
「天井裏で覗きをしていた悪人が物の怪に祟られて、漏らしてしまったそうです」
侍女のはるなが外で聞いた話をしました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じましたが、夫の左京は顔面蒼白です。
(それ、きっと僕の事にゃん)
樹里の膝の上で眠ったふりをして聞いている元猫又の吏津玖です。
「どうしてそのお話が伝わったのでしょう?」
樹里が素朴な質問をしました。
「さあ。聞いた話ですので」
はるなは苦笑いしましたが、吏津玖はギクッとしました。
(そうにゃん、あそこには誰もいなかったはずにゃん)
また漏らしそうになる吏津玖です。
「最近、朧車が出るそうです」
亜梨沙が加藤の中将に言いました。
「そうですか」
自分の事とは思わない中将は気のない返事をしました。