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大村の御息所と弘徽殿の女御
御徒町の樹里は都で並ぶ者のない美人で、光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄です。
帝と御簾越しに対面し、大村の御息所はドヤ顔です。
(これでもみじは妃、いや、皇后候補ぞえ)
すると弘徽殿の女御が突然入って来ました。
「大村様、随分と不躾な事をなさいまするな」
二人の物の怪の放つ妖気にたじろぐもみじです。
「何の事かえ?」
御息所は惚けました。弘徽殿の女御はフンと鼻を鳴らし、
「お上には正しき順序にて后をお決めくださいますように」
そう言って踵を返すと出て行きます。
(決して其方にだけは負けぬぞえ)
御息所は弘徽殿の女御の背中を睨みつけました。
「その事であったか。しばらく待ってもらいたい」
帝は溜息を吐いて応じました。
(渚殿がいらっしゃると思うて会う事にしたというに……)
帝の本命は渚でした。御息所が知ったら卒倒しそうです。
「畏まりました」
勝ったつもりの御息所はまたドヤ顔です。