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転落への前兆
御徒町の樹里は都で一番の美人で、光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄です。
亡き桐壺院の遺命で動いている月一族の葵が樹里の前に現れました。
「我が仇敵の星一族は平特盛と結び、朝廷を我が物にせんとしております」
葵が跪いて言いました。
「一徹さんはお元気ですかね?」
樹里が笑顔全開で尋ねました。
「その星一族ではありませぬ」
葵は項垂れて応じました。
「そうなんですか」
樹里はそれでも笑顔全開です。唖然とする左京です。
その頃、未だに左京に思いを寄せている美子姫は自分の屋敷に戻り、毎日塞ぎこんでいます。
「姫様、お客様です」
侍女が告げました。着物の生地から判断して、貴族ではないようです。
(何者? 何故このような女を通してしまったのだ?)
美子は侍女の失態だと思いました。
「お目通りをお許しいただき、ありがとうございます」
その女は氷のような目で跪いて言いました。
ゾクッとしてしまう美子です。