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清い恋
御徒町の樹里は都で並ぶ者のいない美人で、光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄です。
樹里の侍女のはるなは目黒の少納言と見つめ合ったままです。
(ああ、この方も私を好いてくださっていたのだ)
お互いにそう思い、そこから先に進めないウブな二人です。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で見守っているだけです。
(お助けください、樹里様)
はるなと少納言の両方が実は樹里に救いを求めていました。
樹里と夫婦になった左京は奥の部屋で休んでいましたが、何やら隣が騒がしいので目を覚ましました。
「何だ?」
ソッと起き出して覗き込むと、
「うへえ……」
箕輪の大納言が枯れ葉のようにやつれているのが見えました。
「楽しかったですわ」
由里は笑顔全開で言いました。
(もしかして……)
左京はおぞましい事を想像して身震いしました。
(女は恐ろしい……)
大納言は樹里の部屋から逃げ出しました。
一方、はるなと少納言はまだ見つめ合ったままでした。