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涙の撤退
御徒町の樹里は都で並ぶ者のない美人で、光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄です。
樹里を襲撃しようと企んだ箕輪の大納言は同じ五人衆の宮川の少将と結託しましたが、許嫁のまゆ子姫がいたので固まってしまいました。
「慶一郎様ったら、私をお探しでしたの?」
まゆ子姫は偶然樹里の部屋に来ていたのですが、大納言は嫌な汗を掻いています。
「まゆ子様がいらっしゃらないと、私はどうかしてしまいそうなのですよ」
大納言は嘘を吐きました。
「あらやだ」
まゆ子姫は扇で顔を隠しました。
(何がどうしたというのだ?)
大納言は撤退を決意しました。某沖田艦長の心境です。
(将来のために今の屈辱に耐える)
パクると訴えられるので微妙に変えて思う大納言です。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開です。
「参りましょう、まゆ子様」
大納言は顔を引きつらせてまゆ子姫と共に退室しました。
当然の事ながら、宮川の少将も撤収です。
少将は血の涙を流しながら去りました。