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左京、苦難を免れる
御徒町の樹里は都で並ぶ者のない美人で、光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄です。
亜梨沙に連れ出された左京は、亜梨沙の部屋で蛇に睨まれた蛙のようになっていました。
「さあ、左京様、樹里様の前で恥をかかぬように私とお稽古を致しましょう」
亜梨沙は素早く脱衣し、左京ににじり寄りました。
(この女、顔と身体だけは麗しいのだが……)
性格がアレな亜梨沙にはどうにもその気になれない左京です。
「左京様、いざ参られよ」
亜梨沙は舌舐めずりして左京を誘います。
「ひい!」
左京は身震いしました。
「亜梨沙様」
そこへ蘭がやって来ました。
「何ですの、乱様?」
亜梨沙は再び邪魔をした蘭に字を間違えて切れました。
「加藤の中将が裏切りました。この企み、成り立ちませぬ」
蘭は悔しそうに言いました。
「何ですと?」
亜梨沙は仰天しました。樹里と加藤の中将をくっつける作戦が消えたのですから、蘭には、亜梨沙に左京をモノにされるのは癪に障ったのでした。