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左京、樹里と一夜を共にする
御徒町の樹里は都で一番の美人で、光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄です。
弘徽殿の女御や平特盛達が悪だくみをしているとは知らない樹里と左京は、二人きりで部屋にいました。
笑顔全開の樹里に対して、左京は顔が引きつったままです。
(夜も更けて来た。ここは一つ、樹里様を抱き寄せて……)
夢にまで見た樹里との一夜のはずですが、いざその時になると、左京は身体が動かなくなりました。
(意識が遠のきそうだ)
樹里が焚いたお香の匂いが相まって部屋には心地良い風が吹いています。
「左京様?」
樹里は自分に触れてもくれない左京を見つめました。
(堪らん……)
小首を傾げて自分を見ている樹里を直視してしまい、また気絶してしまうダメな貧乏貴族です。
「左京様、しっかりなさいませ」
樹里は左京の身体を揺すりました。
(つくづく情けない方だ)
見張り番をしている侍女のはるなが項垂れました。