御徒町樹里の源氏物語（四百文字小説）

夕霧

道典と大村の御息所

　御徒町一族は光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄で、美人揃いでもあります。

　翌日、藤原（ふじわらの）道典（みちのり）は大村の御息所を訪ねました。

　かつて心惹かれた御息所の今の有り様には失望を禁じ得なかったからです。

　妻であるもみじを同行させなかったのも、そのためでした。

「久方ぶりです、お義母上（ははうえ）様」

　道典は侍女の美咲に部屋に通されると、微笑んで言いました。

「久しいですね、道典様」

　御息所も微笑んで応じました。そして、

「本日は何用です？　貴方もお忙しい身でしょう？」

　御息所は道典が左京に何かを頼まれたのを掴んでいました。

　道典は苦笑いをして、

「実は左府殿に頼み事をされまして」

　正直に告げました。すると、御息所は途端に顔を険しくして、

「皇子の事ですね？」

　鋭い口調で尋ねました。道典は顔を引きつらせて、

「はい。樹里様が皇子様の養育係にされたのをお義母上様がお怒りだと聞き及びました」

　御息所は道典を睨みました。