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匂の宮は本気
御徒町一族は光源氏の君の血を引く由緒正しき家柄で、美人揃いです。
匂の宮の告白に養父であり祖父でもある太政大臣は言葉を失いました。
(瑠里殿の心が柏木にあると聞いた。それを知り、匂の宮は世を儚んだのか?)
太政大臣は匂の宮を説得しようと思い、
「出家とは穏やかではないな。一体何があったというのだ?」
問い質しました。すると匂の宮は苦笑いをし、
「瑠里様のお心はすでに柏木殿にあります。もう俗世間に何も未練はありませぬ」
「瑠里殿だけが女子ではあるまい。出家は認めぬ。もう少し冷静になれ」
あまりにも短絡的な考え方をしている匂の宮を嗜める太政大臣です。
「他の女子ではダメなのです。私には瑠里様しかおりませんでしたから」
幼い頃からずっと思い続けていた匂の宮には、別の女性という選択肢は存在しないのです。
「急いては事をし損ずるぞ。もう少し考えよ」
太政大臣は匂の宮を宥めました。