第4話 二人一組(ツーマンセル)
ドラグニルの言葉を聞いたセイルは、一瞬「はっ??」と首をかしげた。
周りの受験生もリーマスをふくめ、訳がわからないといった表情を見せる。
「どういうことですか!?学科が違うのに、合同で試験を行うなんて!!」
豪奢な服を着込んだ一人の男子がいきなり前にでて、質問をする。
すると、
「だまれ!!!!!」
またもやドラグニルから鋭い恫喝が飛び、質問をした受験生もろとも全員を黙らせた。
「今から、この合同試験について詳しく説明する!質問があれば、その後にしろ!!」
それを真正面から受けた男子は顔を真っ青にし、スゴスゴと列の後方に下がっていく。
リーマスは訓練のおかげで慣れているのか、特に表情に変わった様子もなく、怒られた男子に哀れむような視線を送った。
「それでは説明をはじめる!」
列の最後にも聞こえるように、つづけて大きな声をだした。
ドラグニルの説明を聞くがぎり、今回の合同試験はユグドラシル学園の長からの指示らしい。
学園長は近ごろ、武術科と魔法科に入学してくる生徒や、在学生のレベルが下がっていることを懸念していた。
そこで学科教師とともに、この状況をどうにかできないかと考案した結果が、このバトルロワイヤル形式だった。
初めは各学科での戦闘にする予定であったが、今後のことも考え、チームとしての能力も考えるべきではないか…
という意見から、二つの学科が合同で実技試験を行うという形に決定した。
そして、説明されたルールをわかりやすくするとこうなる。
Ⅰ,魔法科と武術科の受験生がそれぞれ一人ずつペアを組み、チームをつくる
Ⅱ,学園内にあるユフルの森で、全303チーム中、規定人数である150チームが残るまで戦うこと
Ⅲ,ペアの内、片方だけが残った場合でも、試験はそのまま続行される
(※この試験は個人能力だけでなく、チーム戦としての能力もある程度評価される)
Ⅳ,ペアである二人が戦闘続行不可能と判断された場合、実技試験および学園受験は失格となる
Ⅴ,武器・神霊魔法の使用は認めるが、死者をだした場合も失格とする
Ⅵ,なおペアに関しては、こちらですべて決定してある
大きくまとめると、この六つ。
バトルロワイヤル形式の理由とルールは理解したが、納得はできないセイル。
戦闘による個人能力やチームの評価はいい、しかし大本となるペアが、すでに学園側から決められている。
これは、さすがに厳しい。
ペアとなる相手が強ければいいのだが、あまり頼りにならないと最後まで残るのが非常に難しくなる。
それに知らない相手と組まされて、すぐに戦闘で息を合わすなんてできるはずもない。
(それはおそらく、どんなペアにも言えるだろうが…)
ドラグニルは説明を終えると、質問がないかと聞いてくる。
すると、「あの…」と呟きながら、ソロソロと手を上げる男子。
やはりチームを学園側に決められていることが、不満なようだ。
しかしドラグニルはその質問をぶった切る。
「ペアが弱いかもしれないから心配?…そんなもの自分でなんとかしろ!!」
「今ここにいる受験生は、世界でもトップクラスのユグドラシル学園に合格しようとしているのだろう!」
「このぐらいできなければ、この誇りある学園には必要はない!それが……名門というものだ!!!」
そこまで言われた、受験生たちの反応は様々(さまざま)であった。
自分の覚悟のなさを実感し、泣き出す者。
顔を怒りに歪ませ、教師を睨みつける者。
そして自分の力を信じているかのように、悠然といた態度をとる者。
ドラグニルは、それらを一通り見廻し、これで自分の仕事は終わったとばかりに、後方の教師のなかに入っていった。
待機していた他の教師が名前を読み上げて、ペアの発表をはじめる。
次々と名前が呼ばれて、ペアが出来上がっていくなか、セイルとリーマスは二人で話し込んでいた。
「あの先生って、すごいおっかねえな。まるで俺の親父みたいだぜ」
「えっ…リーマスのお父さんってあんなに恐ろしいの!?」
「ああ、あの怒鳴り方なんて似すぎだな。俺の親父と兄弟って言われても、納得しちまうな」
「うえぇぇ……」
二人は先ほどのドラグニルの演説を聞いても、とくに堪えることもなく気楽に会話している。
周りは暗い表情をしたり、緊張のせいか落ち着かず、歩いきまわる者もいるというのに。
『セイル・ディナント!!』
そして、とうとうセイルの名前が呼ばれた。
リーマスに一言「がんばれよ」と言われると、「うん、お互いにね」と短い返答をするセイル。
急いで向かった先には、すでに一人の女子が待っていた。
明るいブラウンの髪を、肩のあたりまでのばし、少しきついツリ目でセイルを睨みつけている。
「なに?あんたがあたしのペアなわけ??」
きれいな顔立ちなのに、口から出てくるのは、なかなかに棘のあるセリフ。
「うん、はじめまして。セイル・ディナントです、よろしくお願いします」
顔が引きつりながらも、紳士的に手を前にだして握手を求めるセイル。
しかし、その挨拶のなにが不満がなのか、「フンッ」と鼻をならし、
「だれでもいいけど、あたしの邪魔だけはしないでよね」
セイルに差し出された手を完璧に無視して、背を向けて森へと近づいていく。
その態度にムッとするが、ここで諍いを起こしてもしょうがないので、慌てて彼女についていった。
開始の時間は、今から二十分後だ。それまでの敵対行為はすべて禁止になっている。
すべてのチームわけが終わり、それぞれ森に踏み込んでいく。
セイルも、ペアとなった彼女の数歩後ろをついて行き、ユフルの森の奥へ。
その間、二人は会話をしていない。
さすがに、このままでは居心地が悪く、戦闘がおこったときに困るので、セイルは前を黙々と歩く彼女に声をかける。
「ねぇ、さっき僕は自己紹介したけど、まだ君の名前を聞いていないよ」
彼女はそれを聞いてピクッと反応する。
あたしに話しかけるなという雰囲気をしながらも、セイルの方に向き直って渋々(しぶしぶ)答えた。
「カレンよ。カレン・ファルナンテ」
「カレンさんか…いい名前だね。なんでこの学園を受けたの?」
この様子だと、すぐに会話はなくなりそうなので、とりあえず質問をつづけるセイル。
「あんたには関係ない」
「それじゃあ、カレンさんはどんな戦闘方法なのかな?腰にある双剣を使うみたいだけど…」
「それも、あんたに言う必要はない」
「でも、敵が襲ってきたとき困らない?お互いの戦闘方法ぐらい知っておかないと」
「あたしが戦うから、あんたは何もしなくていい。あたしのペアだから魔法使いでしょうけど、見るからに弱そうだし」
そこまで言うと、その後にセイルがなにを話しかけても無視されてしまった。
おそらく森に入ってから、開始の二十分は過ぎているだろう。会話をあきらめて、辺りを集中してみる。
木の葉が風でゆれる音や二人が土の上を歩くジャリジャリといった音しか今のところ聞こえてこない。
まだ近くに敵はいないようだと、セイルは安心していると、
ガサッという草を掻き分け、一人の男が飛びだした。
「うわっ」と一人小さな悲鳴をあげるセイル。
その声に構うことなく、男は手に持っている剣を振り下ろす。
その瞬間、横からカレンが男に向かって勢いよくタックルをかました。
体型的に有利な男でも、横からの攻撃には弱いようで、タックルされた勢いのまま、地面に倒れこんでしまう。
カレンは、そのまま腰にある剣を抜いて、剣の柄の部分で男の頭部を打つ。
目の前に横たわる男は、そのまま意識を失ってしまったようで、ピクリとも動かなくなった。
その光景を見て、落ち着いたセイルは、
「ありがとう、カレンさん。おかげで助かったよ」
「まだね。もう一人いるわ…」
険しい顔で、木々の奥を睨みつける。
それを聞いたセイルは、慌てて自ら背負っている棒状のものに手をかけた。
しばらく構えていると、相手は逃げたようでカレンは構えていた双剣をとく。
それを見ていたセイルも背の棒から手を離した。
「やっぱりあんた…使えないわね。予想はできていたけど」
「……ごめん」
カレンの冷たい視線に、セイルは下を向いて謝った。
そんなセイルとカレンを、離れた木の上から眺める一人の男。
鬱蒼とした森の中で、顔を歪めて笑みを浮かべていた。
あの戦闘から、かなりの時間が経っていた。
あれから運よく、敵に遭遇することもなく、二人は休憩のために大きな大木の根元に腰掛けている。
ときどき戦闘をするような音は聞こえるが、二人に間に会話は一切ない。
カレンはもともとセイルに興味がなく、セイルはさっきの失敗でカレンに話しかけることができないでいた。
お互い無言のまま身体を休めていると、空に大きな光の玉が浮いているのが目に入る。
二人は立ち上がり、警戒を強めた。
「現在の状況を報告する」
光の玉から突然声がする。遠話の神聖魔法だろうか…
「今現在まで残っている受験者は、
総人数436名
チーム数が197
となった。これからの受験生諸君のさらなる活躍を期待し、報告を終了する」
光の玉による報告を聞いたセイルは、再び座り込んだ。
後47チームが脱落することで、この実技試験も終わる。
このまま自分自身の見せ場がなければ、おそらく実技試験に落ちるだろう。
仮に最後まで残り、実技試験が終わったとしても、活躍がなければ受かるとは思えない。
できれば今すぐにでも、相手をさがして力を見せたいところ。
しかし、セイルは魔法使いである。
一人では敵の対処が難しく、神聖魔法は呪文を唱えなければならないので、その間は非常に無防備になるのだ。
そんなことを考えていたところで、座って休憩していたカレンが急に立ち上がり、双剣を抜き放つ。
「…でてきなさい」
静かにその言葉だけを発すると、
「あ~ぁ、バレちまったぁ。…まぁいいか、お前らを潰すのには変わりねぇんだからよぉ」
大木の近くに生えている木の上から、一人の男が降り立った。