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廻らない世界  作者: 二兎
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第2話 王都での再会

王都ブレゼノス。

 街の中心に堂々(どうどう)たる威風いふうをもってそびえ立つ白い巨城があり、それを円を描くように美しい家々が立ち並んでいる。

一国の王都らしく華やかなさに満ち、夜になってもその喧騒がやむことはない。

さらに一ヶ月後には、神様を一年の祈りを捧げる星神せいしん祭が開催されることから、普段よりもかなり人通りが増えている。


「さすがブレゼノス。さすがに賑やかなところだな」


昼も過ぎたころ、街の中心をまっすぐに伸びる大通りを、楽しげにセイルは歩いていた。

今の彼の姿は長袖のシャツの上に皮のよろいを身にまとい、人ひとりが余裕で入るような大きな鞄と布を巻いた長い棒状のものを背負っている。


「はぁ…はじめて王都に来たのはいいけど、こうも人が多いと迷子になりそうだな」


小さなため息をつきながらも、左手に握っている紙も見ながら前に進んでいく。

大通りをせわしなく歩く街人まちびとや警備をしている兵士をけながら、果物を売っている店の角を曲がる。

後ろから聞こえる呼び込みの声に耳をひかれながらも、黙々(もくもく)と歩いていく。

曲がった道幅が狭い通りには隙間なく住宅が立ち並び、楽しそうにはしゃぎまわる子供や世間話をする女性がチラホラと目にうつる。

セイルはその光景を穏やかに見つめながら、目的の家をさがしはじめる。

しばらく歩いていると、


「ここか……」


 セイルは、白い壁が少し汚れた二階建ての家の前で立ちどまった。

最後に手に持つ紙と周りをじっくりと見比べしつつ、目の前にある扉を軽く二回たたく。

すると奥から「は~い」と明るい声が聞こえてきた。

ガチャッと扉が開き、人のよさそうな笑みを浮かべながら一人の女性が顔をだす。


「いらっしゃい、セイルくん。待ってたわよ」


「お久しぶりです、ナナミさん」


「はるばる遠い所を疲れたでしょう。さあ、遠慮なくあがって」


短い返答とともに、ナナミと呼ばれた女性はセイルをなかへと案内した。

家のなかは、普通の一般家庭と同じような造りになっており、持ってきた荷物を床に置くと、リビングにあるテーブルつきの椅子に座らせる。


「どうぞ、セイルくん」


「ありがとうございます」


ナナミは台所に向かい、紅茶をカップにそそいでセイルの前におく。

そのままセイルの向かいに腰をおろし、


「本当に久しぶりね。最後にあったのは…十年前くらいかしら」


「そうですね。ナナミさんが旦那さんと結婚したときが最後ですから」


昔を懐かしむように穏やかな表情を浮かべる二人。


「そうね。でもあなたを見たとき、セイルくんだってすぐにわかったわ。昔とぜんぜん雰囲気が変わってないんだもの。ただ…大きくなって、すいぶんたくましくなったみたいだけど」


「ははっ、やめてくださいよ。恥ずかしいですから」


穏やかな表情を一変させ、手を前に広げて、笑いながら顔を赤くするセイル。

それでもナナミはセイルの身体を見て、


「やっぱり学園に入学するために、いろいろ勉強とか修行をしたの?」


「そうですね。王国でも一つしかない国立の学園なので、それなりにがんばりました」


まじまじとした、少し気恥ずかしい視線を受けながらもしっかりと答えた。


「わざわざ学園の入学試験のために、宿泊させていただいてありがとうございます。本当は最初に言うべきだったんですが…」


深く頭をさげるセイル。


「そんなこと気にしないでもいいわ。姉さんの自慢の息子さんだもの。それぐらいだったら協力するに決まってるわ。旦那も構わないと言ってくれているし」


その言葉を受け、再び一言感謝をのべて頭をあげる。


「そういえば、旦那さんのカリスさんはどこに?」


先ほどからナナミの旦那さんであるカリスが見当たらない。

すこし部屋の中をキョロキョロと視線をさ迷わせていると、


「今日も仕事よ。本当は私も手伝う予定だったんだけど、セイルくんが来るっていう話だったから、今日はお休みしたの。日が落ちるころには帰ってくると思うわ」


「そこまでしてもらって……すいません」


「だからそんなにかしこまらないで。今日からここに泊まるんだから、短い間だけど家族として仲良くしましょう」


そんな言葉を聞いて、少し涙がにじむ目をこする。

まさか、十年も会っていないのにここまで優しくしてもらえるのは予想外だったのだ。

正直な話、十年前といえば僕はまだ五歳。そのときに出会ったナナミさんとカリスさんをはっきりと憶えているわけがない。

例え学園の試験を受けるためとはいえ、そんな二人に少なからず不安を感じていた。

そんな僕を解っているのかいないのか、暖かく迎えてくれたナナミさんに、すごく嬉しい気持ちになり涙がでてしまった。


ナナミも嬉しそうな反応をするセイルを見て、パンッと手を叩いて立ち上がる。


「さあ、そろそろあなたが泊まる部屋に案内するわ。荷物を持ってついてきてね。」


いきなり背を向けて歩き出すナナミに、セイルは飲むのを忘れていた紅茶を慌てて飲み干して、置いてあった荷物をひっつかみ追いかけた。

リビングの奥にある階段をあがると、右奥にある扉の取っ手をまわすナナミ。

なかに案内されると、そこは木製のベッドと机、そして本棚があるだけのシンプルな小さな部屋だった。


「部屋は掃除してあるし、シーツも替えてあるわ。まだ勉強するつもりなら机も使ってくれていいわよ」


セイルは案内された部屋に入り、ベッドの脇に荷物を置く。

そしてナナミの方へ振り向き、


「数日ですが、お世話になります」


「ふふっ。それじゃあ私は下にいるから、何かあったらいつでも言ってちょうだいね。夕飯ができたら呼びにくるわ」


 ナナミは笑顔でそれだけ言うと、部屋をでていき、部屋の扉を閉める。

一人になったセイルは、さっそく鞄を開け、ゴソゴソと中に入っている衣服を取りだした。

夜に着る寝巻きと明日の試験に着ていくための服。

二着をベッドの上に置いてから、次に試験勉強用の本や道具を机に移動させる。

明日に受ける学園は王国でも一、二を争う名門だ。

さすがに前日に勉強してもあまり意味のないものだとはと思うが、椅子に座って本を開く。

セイルは、少しでも自分に自信を持たせるために、そのまま思考の渦へと身を落としていった。



夜、すっかり日も落ちたところで、扉をノックされ「はい」と返事をすると、ナナミが部屋に扉を開ける。

そのまま勉強をしているセイルを見ると、「がんばってるわね」と小声でつぶやく。

そして、


「夕飯ができたわよ。カリスも今帰ってきたから三人で食べましょう」


 確かに、階下からはいい匂いがしてくる。

その匂いに反応してしまったのか「グウ…」とお腹から鳴き声。

それを聞いて、笑顔を見せるナナミは部屋から一階へと下りていく。

顔を赤くしたセイルは、勉強を中断して本を閉じて立ち上がり一階へ向かった。


リビングに入ると、そこにはナナミと一人の男性が椅子に座っている。


「やあ、久しぶりだねセイル君。私のことは憶えているかい?」


こちらを笑顔で振り向きながら、問いかけた。


「はい、お久しぶりですカリスさん」


そのままセイルは、話しかけてきたカリスに向かって頭を下げる。

あまり記憶に残っていないが、十年前もナナミさんに負けないぐらい温和な優しい人だった気がする。


「よく来てくれたね、歓迎するよ。家にいるのは試験の結果が発表されるまでみたいだけど、それまでは三人で仲良く暮らそう」


「ありがとうございます。さっきナナミさんにも言いましたが、これからお世話になります」


セイルも二人が座っている席につき、三人で食卓を囲む。

テーブルの上には、暖かい湯気がホカホカとでているシチューとバスケットのなかにきれいに切りそろえてあるパン。

そして、レタスやトマトなど彩り鮮やかなサラダがボールに入いた。


「それじゃあ、神様にお祈りをしようか」


三人は静かに瞳をとじて、顔の前に両手をあわせる。


「偉大なるしゅよ。生きるめぐみと世界の平和に感謝を。そして再び我らの前にあらわれんことを」


お祈りを終えるとナナミはシチューやサラダをそれぞれ別の小皿によせ、二人の前におく。

自分の皿にも取り終えると、食事をしながらセイルに問いかける。


「さっきまで勉強していたでしょう?」


「はい、明日は試験ですから。今さらやってもあまり意味はないんですけど」


「そんなことないさ。がんばるということは、絶対に後から結果がついてくるものだ。」


「こんなに一生懸命なんだもの。受かるに決まってるわ」


他愛のない会話を続けるが、セイルにとっては嬉しい。二人とも応援してくれるのだ。

期待されているぶん、プレッシャーは余計にかかるみたいだが……


 何回かシチューをおかわりして、みんなおいしい夕飯を食べ終える。

ナナミは食べ終えた食器を運び洗い物をしていて、カイルはリビングで仕事の疲れを癒すように、食後の紅茶を飲んでいる。

そんな二人を眺めたあとセイルは、一言ごちそうさまですと言い残と、一人二階の部屋をもどる。

たくさん食べたせいか、少し腹が重たい。

部屋に入るとすぐにベッドへ倒れこんでしまった。


「明日はついに入学試験か……」


ベッドに、仰向けに寝転がりながらつぶやく。


「大丈夫…絶対に合格する。父さんや母さんも、わざわざ俺のために受験させてくれるんだ。」


 少なくないお金をもらい、できるところまでがんばれと言ってくれた父。それを応援してくれる母。

受験のために十年間会っていなかった二人も期待してくれている。

応援してくれるみんなと、そのために努力してきたことを振りかえりながら、


「よし!明日に備えて、今日はもう寝よう」


セイルは新たな決意を胸に、まぶたを閉じてそのまま眠りについた。


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