表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁のゆめに  作者: 奏 いろは
1.起こりゆく事件
2/10

2

3人はミナを見送り、交番へ戻った。やせこけたソファにどっかりと座り、ハルは紅茶をすすりながらシムのメモをひらりと取り上げ眺めた。

「この住所、公園を挟んでちょうどうちの反対側だな。」

「そうなのか?」 何気ないハルの一言にシムが応える。

「ほら」 ハルはアイリオーゼにメモを渡した。

「ほんとだ」 アイリオーゼもメモを受け取り住所を斜め読みして言った。

「公園てこの交番のすぐそこにある公園だよな。」

シムにはこの地域に住んでいないためあまり土地勘がない。

「そうそう」

ハルが相槌をうつ。

シムは紅茶をぐいと一気に飲みほし、「まあとにかく、本部に連絡いれるか。」と小太りの体を持ち上げ、電話へと向かった。

そのやりとりを聞きながら、アイリオーゼもここが潮時かと立ち上がる。

「そっか。じゃああたし帰るわ。お腹も空いたし。」

アイリオーゼが帰ろうとするのを見て、ハルは思い出したように「あっ、俺のサンドウィッチ…」とアイリオーゼの方を見た。しかし、

「残念だね、ホントに。シムさんと一緒にごはん抜きでいいんじゃない?」

アイリオーゼはこともなげにさらりと言い放ち、交番を出た。

アイリオーゼが帰って行った後。しばらく微妙な空気が流れ、やっぱりな、とハルがこぼし、おこぼれに預かろうと思っていたシムはがっくりとうなだれた。

ハルはこの後、仕方なくパンをいくらか買ってきてシムと分け合いながらぽそぽそと食べたという。


翌日、例によってアイリオーゼが昼食を届けに交番へ行くと、シムもハルも見当たらず、呼びかけても交番の中はしーんとからっぽだった。もしかすると、とバスケットを抱えてミナの家にぱたぱたと向かう。アイリオーゼの思ったとおり、ミナのさっぱりと小綺麗な家の門の前にハルが立っていた。

門にもたれてタバコをふかしていたハルはアイリオーゼに気がつくと、煙草を自前の灰皿にこすりつけ火を消し、手招きをした。言われるがままにハルに駆け寄ったアイリオーゼからランチボックスを受け取り、礼を言う。

「シムさんは?」

きょろきょろと辺りをうかがいながら、アイリオーゼが問いかける。

「あいつは裏の方で見張ってる。」

サンドウィッチを頬張りながらハルが手短かに答えた。

するとんん、とアイリオーゼは唸り、束の間頭の中を探るように考えたあと、ハルに向き直り目を見据えて聞いた。

「なんで2人が見張ってんの?本部に連絡したんじゃなかったの?」

名残惜しげに最後の一口を飲み下し、アイリオーゼの問いに応じる。

「こんなどうでもいいことにかける時間は、本部にはないそうだ。」

「つまり」

「本部からの助け船はなし。」

なによそれと憤慨するアイリオーゼにハルはそうなったら、後は俺たちしかいねえだろ。と指についたマスタードをぺろりとなめつつ言った。

これだから警察は…とぶつくさ小言をいいながらアイリオーゼは軽く足踏みし、ミナの家をじっと見つめた。

「…どうでもいいけど、家に上げてもらって一緒にいた方が見張りになるんじゃない?」

「なんか部屋が汚いから入ってほしくねえんだと。」

「ふーん…」

ハルは急いた気を押さえつけるようにため息をつくと、ゆっくりとした動作で左腕の袖をまくり、腕時計を見た。

時刻は12時50分。

殺人予告の時間まで、あと一分。

ハルはーおそらくシムも裏手でそうしているだろうがー全神経を集中させて、家の周りを注意深く探る。

アイリオーゼもうかなげな面持ちで持参の懐中時計を見つめた。


どうか誰かのいたずらでありますように。

そうすれば後で杞憂であったと皆で笑い合える。

すぎるほどいくらか涼しくなったこの季節だが、空気はなんだか生暖かく、ハルはじっとりと汗ばむのを感じた。

ハルたちにとってはゆっくりすぎるほどカチリカチリと音をたて、針が51分を指したときだった。

「きゃーーーーーーーーっ‼」

断末魔のような叫び声が響いた。

ハルは空になったランチボックスをアイリオーゼに押しつけ走り出す。

「アイリオーゼはそこで待ってろ!」

そう怒鳴りつけ、門をこじ開けしばらくどんどんとミナの名を叫びながら戸を叩いたあと、こらえきれなくなったのか持っていた金棒で扉を壊した。

確かミナは一階のリビングにいると言っていた。

さっとそのことを思い出し、金棒を玄関にぽいと投げ捨て、走って廊下の突き当たりの扉を開く。

そこには…、


あとから裏口を見張っていたシムがおーいと叫びつつ、よたつきながら駆けつけた。

シムはハルの硬直した姿に尋常ではない何かを感じ取り、おそるおそるハルの肩越しに背伸びして部屋を覗いた。

「なんじゃこりゃ…?」

思わずシムがそうもらす。


そこには誰もいなかった。


ただ黄緑のカーペットの上に、致死量と思える程の大量の血が溢れかえっていた。赤黒い血はカーペットには持て余すほどらしく、床の上にも侵食し、じわりじわりと染み込んでゆく。

沈黙していたハルは我にかえり、シムに怒鳴った。

「2階も探すぞ!もしかしたら犯人がまだ近くにいるかもしれない。本部にも連絡をとろう!」

その言葉にシムは弾かれたように2階へと駆けあがった。ハルも部屋を見渡しながら、本部に連絡をとろうと携帯電話を探った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ