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3話-(1) 仲間と共に

ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)


この作品はフィクションです。

登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、

実際の物とは一切関係ありません。


「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects

で構成されています。

初めて読む方は、本編からご覧ください。



俺達は走る。

行く先も知らず、何処に着くかも知らず、

ただ、走っていた。

浮かんでくる思考を掻き消しながら。


「美唯、大丈夫か……」


俺は走りながら美唯に話しかける。

男の俺でさえもう限界が近い。

息が苦しい……。

酸素が足りない……。

部活をやっておけばと少し後悔した。


部活か……。

部活をしていたら、今の俺はどんな風なんだろう?

今の俺とは違うってことは分かる。


「このぐらい大丈夫よ!」


美唯はまだピンピンだった。

なんかショックだった。

美唯は足も速く、体力もある。

俺も足は速い方。

体力は……まぁ、一般よりはある方だろう。

運動神経もそれなりの自信はある。

だが、美唯の体力は超人的だ。

俺達は林が広がっている広場のような場所に着いた。

木々が風で揺れる音が心地よい。

こんな場所があったのか……。

知らなかった。


「美唯……ちょっと……休憩しないか……此処まで来れば……敵はいないだろう……」


俺は呼吸が上がりながらも美唯に伝えた。

もう、限界に近い。

水分が欲しい。

できれば、ミネラル水……。

ああ、スポーツドリンクも捨てがたいかもな……。


「なに?疲れたの?」


当たり前だろう……。

普通は疲れるだろう?


「ああ……休ませてくれ……」


俺は大地に倒れこんだ。

地面は草に覆われている。

眼を閉じてしまえば、眠ってしまいそうだ。

だけど、寝てはいけない。


美唯は俺の隣に、腰を下ろした。


「風が気持ちいい……」


……。……。……。


俺にはそんな風を感じる暇なんてなかった。

それより、酸素が欲しい。

スゥーっと俺は酸素を吸う。


「潤?」


美唯が心配そうに、覗き込んでくる。

俺の顔を覗き込む美唯は、異常に俺との距離が近い。

なにか意味でもあるのだろうか?


「頼むから少し黙ってくれ……」


俺の呼吸はまだ荒い。

心臓も跳ね上がっている。


「そんなに疲れたの?」


お願いだから話しかけないでくれ……。

少し休ませてくれ……。

心の底からそう思う。

その瞬間――


『ガサ!!』


後ろから、草を掻き分ける足音がした。

くそ……!!もう人手がまわったのか!?

俺は立ち上がろうとするが、足に力が入らなく倒れ込む。

まったく情けない姿だ……。


「美唯!!逃げろ!」


俺は美唯に向かって叫ぶ。

もう、俺は歩けないし、走れないし、立てない。


こんな俺を構っていれば、美唯まで殺される。

それだけはどうしても避けたい。

俺の命に代えてでも、――美唯を守らないといけない。


「潤ッ!!」


美唯が俺を抱き起こそうとしている。


「何やってんだ!早く逃げろ!!俺を構うな!!」


「なにかっこつけてるのよっ!?」


バカッ!なにしてるんだッ!

そんなことしてたら、お前まで殺されるぞ!


俺のせいで美唯が死ぬ。

そんなのは絶対嫌だ……。

美唯のために死ぬなら、死すら怖くない。

どんな方法でも美唯を守りたい。


だけど、俺は立てない。

俺を抱きかかえながら逃げるだなんて出来ない。

絶対に殺される。


「君達!無事か!?」


後ろから、見知らぬ女の子の声がする。

もう、此処まで来たのか!?


ん……?


『君達!無事か!?』

と言うことは、

殺意はないのか?


そうだとすれば、願っても無いことだ。


俺は後ろを振り向いた。

そこには、桜凛高校とは違う制服を着た

少女が立っていた。


「そんなに驚かないでくれるかな?」


少女に話かけられた。

その声は優しい声だった。

俺は少女の顔を見た。


髪は赤で長い。

美しい容姿をしていた。


「この通り、私には攻撃の意思はない。安心してくれ構わない」


少女は両手を上げ、戦闘の意思はないことをアピールする。

だが、油断は出来ない。


「それより、君達は無事か?」


少女は心配そうに、問いかけてくる。

話は出来そうな人だ。


「それより、あなたは……」


俺は少女に問いかける。

桜凛高校の生徒ではないことは確かだ。


「私かね?桜凛武装高校3年で剣術科の桜夜 沙耶だ。宜しく頼む」


『桜凛武装高校』……。

『剣術科』……。

俺はその言葉を脳内で繰り返す。

そして、あの少女の名前は桜夜沙耶。


「君達の名前を聞かせて貰えないだろうか?」


少女は逆に俺達に問いかけてくる。

本当にこれでいいのだろうか?

今のうちに逃げる方が良策なんじゃないか?


だが、俺は立つのもやっと。

美唯だけでも逃がしたいが、美唯は俺を見捨ててくれない。

幼馴染の俺達はそれを理解している。


なら、どうすればいい?


俺は少女を見つめる。

少女は俺の返事を待っている。

表情で、そううかがえる。


もうこれしかないか……。

俺は少女に賭けることにした。


「俺は中沢 潤。こいつは、成沢 美唯」


簡単に自己紹介を済ます。

自己紹介には、最低事項の名前だけ。

まだ完全に信頼した訳じゃないからだ。


『桜凛武装高校』


頭にいきなり浮かんだ。

桜凛武装高校ということは、この少女も武装をしている。

剣術科といったら、やはり刀か……。


その証拠に、少女の腰には3本刀が収納されていた。


「中沢くんに、成沢くんか……」


自分に言い聞かすように、言い直す。

どうやら、少女以外は人はいないようだ。


「よろしくお願いします!桜夜先輩」


美唯は笑みを浮かべ、手を差し伸べる。


美唯?

この少女が味方とは限んないだぞ!


だが、その手を迷わず少女は握った。


「ああ、こちらこそよろしく頼む」


二人は握手を交わす。


俺はその光景を見つめた。


どうやら、本当に戦闘する気はないようだ。

もし殺意があったら俺達は今頃、死んでいるだろう。

良い人と出会った。

本当によかった……。


俺は空を見上げた。

夕焼けの空。

青空がいつの間にか茜色に染まっていた。


「立ちながら話すのも疲れる。座って話さないか?」


その瞬間、一気に疲労が身体中を巡る。

俺は崩れるように倒れ込む。

安心して緊張が解けた。


「潤ッ!?大丈夫ッ!?」


美唯が俺の身体を揺らす。

しかも激動。

美唯が揺らす通りに俺の身体も激しく揺れる。

休ませてくれ……。


「まぁ、彼も疲れているのだろう。休ませてあげたまえ」


「あ、はい」


桜夜先輩……。

貴方は何て心優しい人なのだ!

俺はこんな人を疑っていたのか!?


今思うと、自分がバカに思えてきた。


そして、桜夜先輩も腰を下ろす。


「その制服は、桜凛高校かね?」


俺達は桜凛高校。

桜夜先輩は桜凛武装高校。

つまりは、違う学校。


「はい、そうです」


「やはり、そうだったのか……君達も大変だったな……」


桜夜先輩は少し声のトーンを落とす。

頭に不安がよぎってくる。

その不安は桜凛高校での出来事。

あの銃声だ。

頭の中であの銃声の音がよみがえ


「なにがですか?」


俺は桜夜先輩に聞く。

この人なら、この世界のことを何か

知っているかもしれない。


そして、あまりにも唐突に"事実"を知ることになる。


「桜凛武装高校の一部の生徒が、桜凛高校の全生徒を"殺害目的"で桜凛高校に派遣された」


「!!!!!!」


俺と美唯は声が出なかった。


上がるはずの悲鳴は、喉で咳き込む様にして止まった。


その言葉の意味を理解した瞬間、頭がジーンと鈍く痛みだした。

身体の疲労など、どこかに吹き飛んだ。


あの桜凛高校での出来事は……。

あの、桜凛高校での銃声は……。


"俺達、桜凛高校の生徒を殺害するため"


全身の血が頭に昇った。

体中に寒気がする。

胸が激しく心悸しんきする。


悲しいことを知ってしまったとき、胸に感じるあの痛みだ。

さっきまで立ち上がれなかった俺の身体が、本能し従われるように立ち上がった。


「何でそんなことするんですか―――――ッ!?」


俺らしくもないと分かっていながらも、俺の心が熱情する。

あまりにも、理不尽過ぎる……。

俺は『桜夜 沙耶』を激昂する。


「潤ッ!!落ち着いてッ!!」


ならあのとき校舎に行った侑は?菜月は?聖夜は?

あの三人は、戦場と言っていい場所に行ったのか!?


「何でそんな理不尽なことをするんですか――――ッ!!!」


再び、桜夜 沙耶を憤怒する。

俺の精神状態は狂乱状態に陥った。


このままだと、精神が焼き切れる。

そうと分かりながらも、俺の激情は収まらない。

今までの俺の人格は忘却してしまった。


「潤ッ!!」


美唯が立ち上がり、俺を押し倒すようにして優しく抱きしめた。


美唯……。


俺の気持ちが緩やかに落ち着いてくる。

忘却しかけた『俺』を再び掴み取る。


美唯の胸の中はどうしてこんなに温かくて、優しくて、落ち着くのだろう?


落ち着け……。深呼吸だ……。


狂乱しては駄目だ……。とにかく落ち着け……。


「すいません……先輩……」


先輩に謝罪する。こんな俺を赦してくれるのだろうか?

だが、先輩はやさしく微笑んでくれた。


「いいさ。これは事実だ。君が怒鳴ってしまうのも無理はない」


俺は落ち着いて深呼吸をする。

そして、先輩に問いかける。

ここで狂乱になってはいけない。


「何で桜凛高校の生徒を、殺さないといけないのですか?」


冷静になり、先輩に問いかける。


俺は"真実"を視る事が出来るのか?


「桜凛武装高校には、科が八科存在する」


桜夜先輩が話し始める。

俺達は、先輩の話を静聴する。


「剣術科、現代剣術科、魔法科、現代魔法科、射撃科、戦術科、異能科、総合科、がある。それぞれ科により、もちろんやることも変わってくる」


桜凛武装高校のことは俺はよく知らなかった。

科が八つもあるなんて初耳だ。


「君達も知っていると思うが、ここは通常の世界ではないらしい」


それなら俺達は知っている。

だが、逆に言えば、


"これしか知らない"


とも言える。


「はい、電気も使えないし、人間もいない……」


俺の知っていることを先輩に伝える。


「その通りだ。私はその辺りは詳しくはないが、どうやら、此処は"異世界"らしい」


"異世界"


此処は異世界なのか?

俺達は今、異世界にいるのか?

異世界なんてものが本当にあるのか……?

異世界ってなんだ?


「異世界……?」


美唯は冷静にその言葉を繰り返す。


「ああ、結界のような物だと思えばいい。そこへ私達は堕ちたんだ」


堕ちた……のか?

俺たちは異世界に……。


「この異世界から脱すべく、戦術科の出した命令。それが、桜凛高校の生徒の全滅だと私は思う」


「なッ……!!」


異世界から脱する方法が本当に俺達の全滅なのか!?

だから、狙ってくる!?

なら、俺達はッ!?

元の世界に戻れないまま、ここで死ぬ運命なのか!?


いや!本当に"それだけの理由"なのか!?


「桜凛高校の生徒は戦術科のだした命令、指令は遂行しなければならない。学校の決まりの一つで桜凛武装高校の司令塔のようなものだからな。それに従わないと、生徒がバラバラになってしまう」


それが、桜凛武装高校の規則。

桜凛高校全生徒の殺害は命令。

つまりは絶対に従わなければならない。


だけど……そんな事がありえるのか?

なんで、その命令に従うんだ?

   

「なぜそのような指令を出したんですか?」


美唯は心が折れていない。

冷静と平然を保っている。


「この異世界には、桜凛高校の生徒と桜凛武装高校の生徒しかいない。そんな状況だったら、誰でも相手を全滅させれば元の世界に、戻れると思ってしまうだろう?細かいことまでは知らないが、そのようなものだと思う。あくまで、私の考えだがね」


確かに俺でも思ってしまう。

桜凛高校と桜凛武装高校の2校しかないのだから、

どちらかが全滅すれば、元の世界に戻れる。

そう言う考えだろう。

だけど、


"どうしてそこまでして戻りたい?"


それが俺には理解できなかった。


「なぜ、桜凛高校の生徒と桜凛武装高校の生徒しかいないのですか?」


俺達以外の人間は何処に消えてしまったのだろうか?

いや、此処は異世界。

つまりは、俺達以外の人間は現実世界で普通通り暮らしているのか?


「これは、魔術などが関係しているだろう。残念ながら私は、魔術などとは無縁の関係だ。役に立てなくてすまない」


『魔術』


魔術なんてものがあるのだろうか?

いや、ありえないことではない。

俺達のこの異世界自体が、常識外れなんだ。


「そんなッ!!先輩がいなかったら、この世界すら知ることが出来ませんでした!」


これは本心だ。

このまま何も知らなかったら、俺達に訪れるのは残酷な未来だろう。


『知らない方が幸せ』という考え方もあるかもしれない。


だが、そんな言葉はこの異世界では力なく消える。

真実を知らない者から消えていく。抗えず、惨劇なまでに。


それが、この世界の現実リアル


「そう言ってもらえると助かる」


どうやらこの異世界には、桜凛高校の生徒と、桜凛武装高校の生徒しかいない。

これは、確かなようだ。


『異世界とは、結界のようなもの』


この異世界から脱出する方法は不明。

だが、桜凛武装高校の戦術科の考えは、


『桜凛高校の生徒の全滅』


これを達すれば、元の世界に戻れる。

そう考えたのだ。


受け止めよう。その事実を。


「なんで先輩は私達を倒さないんですか?」


美唯が恐ろしい質問を先輩に問う。

こんな質問が出来るまで、俺達は先輩のことを信頼している。


『戦術科の出した命令、指令は遂行しなければならない』


そう先輩も言っていた。

なら、桜凛武装高校の生徒である先輩は絶対に従わないといけない。


「私はそんな狂気な命令は従わない」


自分の志ともいうべきなのだろうか?

霧も曇りも無くそういった。


「……え?」


狂気な命令。

それは、桜凛高校の生徒の全滅。

確かに狂気だ。

あまりにも理不尽すぎる。


「例え至上命令でも、命には代えられんよ」


先輩は微笑みながらそう言う。


この人を信じよう。

俺は心の底から思った。



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