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33話-(2)


「くぅ……」


相手の息にも届かない事を痛感した桜夜先輩は表情を歪め、アリフォーユから距離を取る。

その間も清王さんは急所に向けて発砲し続けていたが一弾たりとも掠りもしない。


「あら? もう終わりなの?」


二人とは相反して息も切らさず、挑発的な笑みを浮かべる魔女。

これが……桜凛八重奏の力なのか。

その内の一人が目の前にいるアリフォーユで、彼女同等かそれ以上の人があと7人いるんだぞ……。

想像する九死に立たされている気分になる。


「私に傷一つ付けられない程の弱卒だったなんて……なんともつまらないわ」


オーバーリアクションで両手を上げ困惑を示す魔女。

そんな魔女に清王さんは珍しく、短く鼻で笑った。


「そんなに傷が付けられたいの? なら付けてあげるけど」


「貴方も面白いことを言うのね。あなたみたいな弱卒が私に血を流せると思って?」


「一応希望は聞いてあげる。どこから血を流したい?」


「……そうね。久方ぶりに身体を動かしたから右肩が凝ったわ」


「わかった」


スッと目を閉じた清王さんはゆっくりと両の腕を頭上でクロスさせる。

銃口は天へ向いている……あの態勢でどうアリフォーユを射抜くつもりなのだろう?

同じ思考を抱いていたアリフォーユも軽蔑の冷笑と、少しだけ期待を寄せている愉しみで頬を釣り上げた。


重なり合うような銃声が聞こえたのは清王さんが眼を見開いたのと同時で――

銃はただ銃口の先へと飛ぶだけで――つまりこの弾も天へ向かっているはずだった。


「――え?」


魔女とは思えない呆けた声が耳に届く。

何が起こったのか清王さん以外は誰も理解出来ない中、強い衝撃を感じた右肩に視線を落とすと――


「つぅ――ッ!?」


今、自分が置かれている状況を身体で理解したアリフォーユは左手で右肩を掴むように押さえ遂に膝を屈する。

押さえる左手にはべっとりと真紅の血が染みつき、それでも溢れる血は服へと染み込んでゆく。


――清王さんの放った銃弾はアリフォーユの右肩に被弾していた。


「あ、あなた……どうやって……!? まさかあなたも魔術師なのかしら……?」


「魔術? そんなもの私は興味ない」


銃口を魔女の頭に向け、グリップが軋む音が静かに響く。


「……あんな業、魔術以外にありえないと思うけど?」


驚愕と焦燥に絡め取られた急くような口調は、魔女の立場が優勢から劣性へと変わったことを物語っていた。


「両方の銃の初速が2倍違う。そう言ったらわかる?」


「……おもしろいわ。そういうことだったのね……」


納得したような口調でいうアリフォーユは理解出来たのだろうが、俺には何一つ理解出来なかった。


「2つの銃弾を空中でぶつけて誘導させていたなんて……これぞ神業というものかしら?」


その言葉でようやく理解出来た。

同時に空へ向けて発砲した2つの銃弾は初速が2倍違い論理的にはどこかで交わる。

その交わりを利用して一つの銃弾を誘導させアリフォーユへと被弾させた。

もはや人間の域を超えていることぐらい誰にでも解る……。まさに神業だ……!


「それに……銃弾に何か仕込んでいるわね? 迂闊だったわ……」


華奢な身体が重い訳ないが、上から圧力でも掛けられているようアリフォーユは地面に平伏しそうになる。


「弛緩毒。校則で殺傷能力のある毒は禁止されてるから」


「そんなモノまで塗っていたなんてぇ……ね……」


その言葉を最後に魔女が音を立てて地面に倒れ込んだ。

銃弾に塗ってあった弛緩毒の影響で――もう身体に力が入らないのか。

桜凛八重奏の一人、アリフォーユの無力化を確認した清王さんはゆっくりと銃を下ろす。

絶対的優位の過信が生んだ魔女の敗北。その突くべき隙を見事打ち抜いた清王さんに俺の視線は奪われていた。


「……見事だ」


桜夜先輩は神切を鞘へと収め、清王さんを凝視しながらそう感嘆の声を漏らす。

先輩とは相反するような戦闘スタイルだからこそ、その戦い方が映えたのだろう。


「中沢くん。束縛用のロープを持ってきてくれないか?」


「あ、はい! わかりました」


俺たちは誰も殺さない、そう誓った。

確かロープが入っていた鞄を持っていたのは美唯だっただろうか。

なら医療器具と共に入ってるとみた。


地面に平伏しているアリフォーユを一瞥し安全を確認すると、俺は桜夜先輩達に背を向けて美唯たちのいる藪の先へと駆けて行った。



――あと少しで着く、その時だった。



俺の左眼が突然疼きだし、意思とは反した反射のように結界が発動しだした……?

この感覚……家族を失った事故の時、勝手に結界が動きだしたときと同じだ――!


「うわぁ――ッ!?」


結界ごと持ち上げられるような……尋常じゃないほど強い衝撃波がアリフォーユから放たれている……!

反射的に結界を貼っていなければ俺は間違いなく吹き飛ばされていただろう……。


「さ、桜夜先輩!? 清王さん!?」


結界の範囲外にいた二人はアリフォーユから突き放されるように吹き飛ばされていく……。

くそぉ……なんなんだこれは……! まだアリフォーユには余力が残っていたのか!?

結界を貼っているが故に二人の声も聞こえないし、状況もまるで掴めない……。

一刻も早く結界を解除する必要があると読んだ俺は衝撃が治まるまで必死に耐えていた。


「くそぉ……!」


衝撃がなくなった事を確認すると俺はすぐに結界を解除する。

桜夜先輩も清王さんもあの衝撃波で最前線からは遥か遠いところまで吹き飛ばされてしまった……。

つまり――俺が一番の最前線に立っている。


「……私を地面に這わせたあなたたちには特別に……地獄の業火をみせてあげましょう」


……何かが起ころうとしている。

アリフォーユは弛緩毒の影響で地面に伏しているものの、第六感が警告の鐘を鳴らし続け不安感は一層に増していく。


「……命を燃やす最上級の魔術。このアリフォーユ――最期の魔術を……!」


それを聞いて思わず息を呑んでしまった。

魔女は自分の命を代価に計り知れないほどの魔術を駆使しようとしている……!

身体に力は入らなくても魔力は使えるとでもいうのか……!?


「させるかぁ!」


もはや魔女を止めれるのは俺しかいない!

命が代価となるような最上級魔術だ。この世界ごと吹き飛ばす程の威力があってもおかしくはないんだ……!

ならば俺はそれを絶対に止めなくてはならない!


――だけど、どうやって彼女を止める?


それが頭を過った瞬間、俺の脚は完全に止まってしまった。


魔女を目視すると、天を仰ぎながら震える両腕をかざし、既に魔法陣が完成していた……!

はやく……はやく止めないと……!


俺が右往左往している中、自ら誇示するよう視界に入ってきたのは――地面に突き刺さっている桜夜先輩の刀、神切だった。

あの衝撃波の際に吹き飛ばされ地面に刺さっていた神切に、俺は惹きつけられるよう本能的に駆けていた。


「――ッ!」


その短い時間の中、あの時の桜夜先輩の言葉が走馬灯のように蘇る。

『この神切の神の力を解放したら拒絶反応が起こり所有者が死ぬ。それと、桜夜の血が流れていない者が柄を握ると拒絶反応で死ぬ』


ここで俺がこの神切を手にしなければ、アリフォーユを止める術はない。

……もはや命を惜しんでいる場合じゃない……世界という天秤に掛けられているんだ……!


「少しだけでいい! 耐えてくれ!」


自分の身体に気合を入れるよう叫び、全速力の勢いをそのままに俺は神切の柄を握った――



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