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32話-(2)



「行くぞっ!!!」


桜夜先輩の叫声に突き動かされるよう二人は駆け出し、それと同時に結界を解除する。


「ここは桜凛八重奏に任す! 一時撤退!」


赤瀬川たちが退いていくのが横目で見える。

あのアリフォーユといった少女は敵味方関係なく虫のように俺たちを甚振っていた。

確かにここで退くのは上策といえるだろう……。


「どうか無事で!」


心の中に留めていた言葉がつい口に出ると、俺も皆を守る為に小規模の結界を創る。

光の弾丸が絶え間なく降り注ぐこの場で、結界を解除した瞬間が俺たちの最期だろう……。

そんな場所へ、桜夜先輩と星見郷は駆け出したのか……。


「あたしにだって出来るんだよぉ!」


星見郷は両手を高く突き出すと、空に浮遊する魔法陣のようなものが目の前に出来る――!

その魔法陣に激突した弾丸は蒸発するように霧散していく。


「さすがだ!」


桜夜先輩は星見郷の背中に隠れると、魔法陣を透かして遥か上空にいる魔女を目視する。

そして――


「千鳥に宿われし雷魂よ、再び生ずことを請う」


これは雷魂を生ずるための呪。

まさかそれを神切に宿そうということか――!?


「今、此処に雷魂を開放する!」


途端、目の前全体に雷の障壁ができ状況が掴めなくなる。


「突破口を開く! 解き放てぇ! 零傑――!!」


閃光のような光が消えると、桜夜先輩はギュッっと神切の柄に力を込める。

そして全力を刃に送り込み、空をその場で上下に一刀両断する勢いで切り裂いた――!!!


龍の如く、空を這い上がるようアリフォーユに向かって放たれる衝撃波。

その衝撃波は道中の弾丸も消化させ、勢いも衰えず真っ直ぐに――


「ほぉ、なかなか愉しませてくれる」


余裕のある笑みを浮かべたかと思うと、彼女も星見郷のよう両手を前に突き出す。

同じ動作。これは防御陣を展開しようとしている!


「もらったぁ!」


衝撃波は展開した魔法陣によって消えてしまった。

だが、それと同時に星見郷も幼さを張り上げた声を残して地面から消えていた。


「なッ――!」


初めて驚愕の声を上げたアリフォーユの目の前に、星見郷はいた――!

まさかあの距離を飛翔したのか……? いや、これも魔法だとでもいうのだろうか。


「アンタは地面を這ってなよぉ! そっちの方がお似合いだしぃ!」


飛翔の勢いをそのままに、星見郷は全ての勢いを刃先に乗せて突きの態勢をとる。

だが、その先にはあの衝撃波すら防いだ魔法陣がある。なら桜夜先輩の宝刀でもない限り圧し壊すというのは難しいだろう。


「無駄なことを……!」


全ての衝撃を魔法陣が受け止めると、星見郷は慣性の法則に逆らう事無く空中で身体を翻す――!

アリフォーユよりも上空に舞った星見郷は着地の手で彼女の頭を鷲掴み――


「結構高いねここぉ!」


後は重力に従うだけ。

星見郷はアリフォーユの頭を地面に叩き付けるよう自分の下敷きにし、重なり合うよう猛スピードで落下していく!


「ぎゃぁああぁあああ―――――ッ!!!!!」


絶叫を最後まで聞くことなく、サンドバックを地面に叩きつけたような鈍い音がする。

骨が絶ち、肉が歪む水音が奏でる最も聞きたくない生々しい音……。


「星見郷くん! 大丈夫か!」


アリフョーユを下敷きにしたとは言え、かなりの衝撃だったのだろう……。

星見郷は咳き込んで吐血し、よろめきながら彼女から距離を取っていた。


「げほっ! ごおっ! え、えへへへ、だ、大丈夫だよぉ……」


笑みを浮かべながら口元に垂れた血筋を人差し指で拭う。


「さ、さすがにあの距離から落ちちゃえば助からないっしょ……」


「……ああ。良くやったぞ」


呼吸が上手く出来ないのか、苦しそうな呼吸をする星見郷に歩み寄りポンッと肩を叩く桜夜先輩。


――勝ったのか?


俺は真相を確かめる為に一時結界を解除する。


桜凛八重奏と謳われる一人がこんなにも早く、しかもあっさりと決着がつくものなのだろうか……?

だけど、全身を強く強打したアリフォーユはぴくりとも動かず地面にひれ伏している。


「……妙だな」


桜夜先輩も同じく、奇妙なものを見るかのような視線でアリフォーユを凝視する。

誰も彼女に近づけない。いや近づいてはいけない。

あの高さから落下すれば普通の人間なら間違いなく絶命。

たが、それは彼女が普通の人間だった場合だ。


「ならば、塵に返すまでだ」


一度、風を切った神切の刃先は流れるようアリフォーユを差す。


「我が剣よ請え。全ての雷魂を飲み込み、正法を生じよ」


その呪に雷切が反応し更に帯電を増すと、次の瞬間には激しく音を立て帯電し始めた!


「雷神正法。雷光!」


雷の障壁がアリフォーユへと向かう――!

その雷、一光一光が自ら意思があるようその小さい身体を蝕んで行く。

もはや閃光のよう眼が焼けてしまう光景を前に、俺は目を背けるしかなかった。


「ふふふ……。はーっはっはっはっはっはっ!」


完全に身体が硬着した。

聞こえるはずもない魔女の声が――俺たちの真後ろから聞こえたからだ……!


「玩具はそんなに愉しいかしら?」


俺たちを卑下するよう見下ろした笑みを浮かべ、恍惚そうに俺たちを見るアリフォーユ。

確かに目の前には死んだはずの魔女がいる……。まさかあれは……人形だったとでもいうのか……?


「なぁ――ッ!」


桜夜先輩は完全に意識が人形の方に行っており、気付いたのはたった今だった。


「あなたは中々面白かったわよ。あら? 今も面白いわね」


苦しそうに息をする星見郷を愚弄するよう魔女が語りかける。


「う、うそ……ッ!? うぅ、ごほぉっ! げおっ!」


声を張り上げただけで吐血する星見郷を魔女は愉快気に見ると、そのままゆっくりと歩みだした。


「ほら、苦しいんでしょう? なら地面に這いずりなさいな。あなたが一番お似合いよ?」


「い、いやぁ……、うぐっ!」


何かの魔法のよう突如、力が抜けた糸人形のよう星見郷は崩れ落ち、魔女の言う通りに地面を這いずる……。

その光景を前に俺は何も出来なかった。声にすらならなかった。


「地面のお味はどう? 癖になりそうでしょう?」


「うぐぅ!? あ、あぁ……! ごほぉ!?」


星見郷の間近まで歩みよった魔女は足で顔を踏み付け、何度も地面に擦りつける……。

――許せねぇ。絶対に許せねぇ! あんなことやって良いと思ってるのか!? この魔女は!!!


「やめろぉおおおお―――――ッ!!!!!」


何重もの声が重なり、俺たちは全員同時に動きだした――

桜凛八重奏の一人である魔女を倒す為に。



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