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31話-(1) 総力戦



俺たちが逆に強襲したことによって、敵は焦慮しているよう。


見える限り敵は10人程度。まだ隠れていることを考えると大幅に人数では負けている。

だが、その最前線にいる敵の人数イコール敵の数ではなく、隠れている人もいるかも知れない。

でも、どちらにせよ勝敗を分けるのは人数なんかじゃない。


「さ、作戦コードBに変更ッ!」


リーダーらしき人物が一際大きな声で叫ぶ。

確かあの人は……前にも一戦を交えた赤瀬川麗那じゃないか?

なら俺たちの戦い方を知っているだろう……ちょっと厄介だ。


「了解!」


透き通る幼い声には似合わない長刀使い――水月淋那。

そうか……徒党を組んでいるという事か。なら想像より遥かに加算されるな。

……相手も総力戦ということか。


俺はぎゅっと桜夜先輩から与った刀――三日月宗近の柄を握る。


今までとは明らかに違うことがある。

それは容赦なく戦闘の経験もない俺たちに襲撃を仕掛けることだ――


「美唯、月守さん! 俺から離れるなよ!」


「うん!」


二人の返事が重なった事を合図にするように俺は二人を背中に回し、俺たちに向かって疾走する二人を凝視する。

相手は刀。遠距離の武器じゃない事が救いだった。


「走るぞ!」


俺は柄を握っていない左手で自然と美唯の手を引き、相手に向かって走り出す――

中距離といえるこの距離。もう相手は疾駆させた足を止める事は出来ないだろう。


「いけぇ――ッ!!!」


叫び声と同時に俺と美唯を覆う結界を創る――!


「な、なにぃ……うわぁ!?」


疾駆した身体は急には止まれない。

俺たちに襲撃を仕掛けてきた二人は結界による正面衝突の原理で弾き飛ばされる――!


「潤っ! すごいじゃない!」


「潤先輩かっこいい!」


今考えてみると良くこんな事をしたなと思う。

いつも桜夜先輩たちの背中に隠れていた俺が――敵の相手をするなんて。


っと、こんな事を考えてる場合じゃなかった。ここは争いの最前線だ。

俺は結界の中から弾け跳んだ二人を見ると、自分の鼻が痛く感じる程の血が大量に流れていた。


「……ごめん」


この結界の中は無音。外の音は何も聞こえないし、中の音も外には聞こえない。

つまり外部からの侵入が不可能。だから謝っても無駄だと解っていたが、どうしてもその言葉が出てしまう。


その二人は結界に向かって何度も刃を入れているが、まるで動かない石垣のようびくともしない。

この中にいれば絶対に安全な訳だが――どうしたものか。


でも今は敵が目の前にいる。結界を解除したら敵に攻撃されるよな……。

ということは少し待ってみるか。結界内からも攻撃出来る方法を考えながら。


黙考してる中、横を一瞥すると迷いのない剣捌きで敵と対峙する桜夜先輩がいた。

相手は赤瀬川麗那と水月淋那の二人。なのにも関わらずまったく劣勢を感じさせない。


「でも、音が聞こえないから状況がわかりにくいよね」


美唯が苦笑いを浮かべながら、俺と同じ外の世界を見る。

本当にこの結界は世界から孤立した感じだな。周りの音がまったく聞こえないからかもしれないが。


不意に――地面を何かが這うような不可解な感覚に襲われる。

何だ……? この感覚は。まるで何かが迫っているような……。


「――ッ!? そういう事か! みんな後ろに退けぇ――!!!」


結界は360度全て守ってくれる訳ではない――下は地面だ!

俺の叫び声に俊敏に反応してくれた二人は精一杯に後ろへ飛び退いた、その時だった。


「うおぉ――ッ!?」


激しく地面が揺れたかと思うと、先まで俺たちが居た場所に地面から虹彩のような光が立ち昇っていた。

まさか――これが魔術なのか……?


初めて見るそれに驚愕している時間もなく躊躇なく上から瓦礫が降り注いで行く――!


「くそぉ……!」


頭上に結界を貼って瓦礫を防ぐと、すぐにそれを解除して別れた美唯たちの方へと駆け出した。


「美唯――ッ! 月守さん――ッ!」


ここは戦場だ。最前線にいる俺たちは一秒たりとも油断なんて出来ないんだ。

悔恨を胸に霞めながら、ただ一心不乱に全速力で走った。


「覚悟ッ!」


それを阻むよう、目の前には刀を携え刃先をこちらへ向ける女生徒が一人。

顔面からは真紅の血が流れているという事は、俺が結界によって弾き飛ばした一人のようだ。


どうする……? もう相手は結界の存在を知ってるんだぞ? ここを突破なんて出来るのか?


状況に頭が追いつかない。どうすれば美唯たちを助けられるんだ……。

こんな中、桜夜先輩は戦いながら俺たちを助けていたと思うと先輩には物も言えなくなる。

それがどれ程の離れ業か、身をもって体験した。


「くぅ……」


俺は足を無理やり止めると、術を探す為に周りを見た。

その中、清王さんによって守られている美唯たちを見つけ、戦闘中だというのに安堵をしてしまう。


これで俺も目の前の敵に集中出来るな。

この少女が突進さえしてくれれば、弾き返せるのだが……それを知っている少女はずっと身構えている。


「――!」


睨み合いが続く中、突如少女が横へ跳ぶようにして転がる。

その少女の影から、禍々しい文字が渦巻いている魔方陣のようなものが見えた――!


そこから無数の光という名の弾丸が放たれる――!


「なぁ――ッ!?」


身の危険を感じ、反射的に発動してくれた結界のお陰でそれらは防ぐことが出来たが、それでも絶える事なく光の弾丸を放ち続けている。

――数を撃てばこの結界が壊れるとでも思ったのだろうか。

この結界の耐久性についてはまったくの未知数だが、どんな強力な業でも壊れる気はしない。


いつまでも弾丸が放たれる中、俺の結界の上面を跳ぶように通ってその魔方陣へ向かう人影が見える――星見郷だ!


「ありがとう星見郷!」


星見郷が上手くやってくれたお陰で光の弾丸は消え、ようやく結界を解除することが出来た。

――早く美唯たちの所へ行かないと。再び俺は全速力で走りだした。


「まだだぁぁあああああ―――ッ!!!」


重心を低くし、獅子のような速さで突進しつつ、その勢いをすべて剣に乗せている――!

あ、あれは――さっきの女の子!?


「――ッ!!!」


その動きに共振するよう瞬時に結界を発動させようと左眼を見開いた瞬間だった……。


突如、左眼を貫かれるような痛みが走った――!?


「ぐあぁっ!?」


眼球が燃え尽きるような感覚に身悶えると、あまりの激痛で刀すら落としてしまった。

眼から脳へ伝わる神経は沸騰でもしているかのようぐちゃぐちゃになっている……。今すぐにこの左眼を抉り出したいほどに……。


左眼はもはや開く見開いたまま閉じることすら出来ないが、歪ながらもどうにか見える右眼でその行く末を見てみると、既に少女の刃は至近距離まで迫っていた。


自分の能力に対する過信か……。こんな時に使えなくなる何て思ってもいなかった……。


俺を信用していたから桜夜先輩も戦っているのに……。


「御免ッ!!!」


……ああ、これは死んだ。絶対に。もう――既に俺の命は天秤にかけられた。

彼女の刀身は俺の脳天目掛けて振り下ろされようとしている。


「じゅ、じゅん―――――ッ!!!!!」


誰かの叫び声のようなものがノイズとして聞え、もはや俺の耳は正確に音すら拾えなくなっていた。

が、それとは逆に抹消の感覚は元通りになりつつある。

だけど、何をすれば助かるかなんてまったく解らない。


俺は――諦めるのか? このまま。能力を使わないと助からない状況だから?


能力がないと何も出来ないのか? このまま黙って死を迎えるのか?


――まだだ。まだ俺が生きる未来だってあるはずだ!


考えるよりも先。本能的な反射で落としてしまっていた三日月宗近の柄をもう一度握り、それを脳天に掲げた――!




甲高い金属音が聞こえる。それはまだ俺が生きている証拠。

絶対に間に合わないであろうタイミングだったが、彼女にも多少の迷いがあったらしい。

本当に、間一髪とはまさにこのことで――どうにか刃身で受け止めることが出来た。


戦場では少しの遅れが命取りになる。桜夜先輩の言葉をもう一度深く唱えた。

彼女の少しの遅れがあって俺は助かったんだ。逆に、遅れがなかった俺は助かる事が出来たんだ。


――助かった余韻に浸っている場合じゃない。今の状況だって死が隣り合わせだ。


「と、とめた……?」


少女はまだ状況を解せない様子で、ただその眼を瞬かせている。

俺は左眼の感覚を確かめるといつもより激痛もあってかいつもより滾っているよう。

その感覚に嫌悪感はない。これならいける――!


「うぉおおぉぉおおおおお―――ッ!!!」


左眼を見開き、鍔迫り合いであるこの至近距離から結界を発動させる――!


「きゃぁっ!?」


短い悲鳴を上げた彼女は神速で膨張する結界によって弾き飛ばされ、手に持っていた刀は遥か宙へ舞っていった。

――結界は無限に使える訳ではなかった。やはりあの激痛は使いすぎによる痛みだったのか。

ならこれ以上、展開を続けるのは良くない……。


俺は結界を解除し、戦闘の最前線からは一度離れ、側面から回り込んで美唯たちのところへ駆けて行った。



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