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27話-(2)

ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)


この作品はフィクションです。

登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、

実際の物とは一切関係ありません。


「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects

で構成されています。

初めて読む方は、本編からご覧ください。



―9月6日―



「お兄ちゃん! 朝だよぉ!」


永久とこしえの旅路に出ている俺の意識を、無理やり呼び戻そうとする声が聞こえる。

だが、その声も過ぎ去る旅路の景色のように上塗りされ消えていった。


「ちょっと! 潤を起こすのは幼馴染である私の仕事なんだから邪魔しないでよ!」


「そんなの関係ないよぉ! 今日からさあらがお兄ちゃんのお目覚め係ぃ!」


身体が左右に揺れている。

もちろん俺が自ら動いている訳ではない。外部からだ。


「あぁ~! なるほどぉ! お兄ちゃんはさあらのお目覚めのチューが欲しいんだねぇ!」


「えぇ? ちょッ! そんなの私でもしたことないのに!」


俺の上半身に自然のものとは思えない重力を感じる。

いや、物体か?

温もりがあって柔らかい……まるで人間のようだ。

ん……? 人間?


「チューが欲しいなら直接言えばいいのにぃ! お兄ちゃんったら恥ずかしがり屋だなぁ~!」


「や、やめっ!!!」


何かが頬に接近してくる、妙な圧迫感に襲われる。

だから俺は本能的に左眼が見開き、結界でそれを弾き飛ばした。


「うぎゃあああッ!?」


眼を覚まして一番に眼に入った光景は――

星見郷さあらが俺の結界によって弾き飛ばされ、宙を舞っている光景だった。


「潤、おはよう!」


爽やかな美唯の挨拶が聞こえる。

いつになっても一日の始まりは美唯の声からだな。


「ああ、おはよう」


挨拶を返した瞬間、約10メートル先からドスッと何かが落ちてきたような鈍い音が聞こえた。

そんな音に振り向きもせず、俺は大きな欠伸をする。

盛大な欠伸をしている中、何かが落ちてきた方から声が聞こえてきた。


「……誅伐!」


「えぇッ!? 違うんだって翠華お姉ちゃん! お姉ちゃんの真上に空から好意的に堕ちれる訳ないよぉ! 確かにお姉ちゃんがクッションになったお陰でさあらは無傷だったけど、あれはお兄ちゃんがぁ……」


「そんな詭弁どうでもいい。 誅伐ッ!」


「うぎゃあああッ!? 朝から発砲しないでよぅ! 当たっちゃうよぉ!?」


「愚問。 当てないと誅伐にならない」


「痛い痛い痛いぃ! うぎゃあああぁぁぁ―――ッ!?」


なんか清王さんと星見郷は朝から元気いいな。

いや、なんかすごい事になってないか?

銃声も聞こえるんだが……まぁ、俺には関係ないか。


「あはははは、潤すごい寝癖だよ?」


美唯が俺の頭を指差し、優しく微笑む。


「お前だって全部の髪が逆立ってるぞ?」


「そ、そんな訳ないでしょッ!」


言葉で否定をするが、美唯は頭を直接触って己の形状を確かめる。

何だかんだ言って美唯は俺の言う事を確かめるよな。

逆立ってるなんてすごい感覚が生じるはずだから解るだろ?


ふと視線を奪われたその先では、桜夜先輩が今日も元気に鍛錬をしていた。

……あの人は寝ているのだろうか?

しかし、鍛錬と言うものはいつ見ても昆虫の求愛行動にしか見えない。

それか、民族の儀式……。


桜夜先輩の周りを見渡すと、狙撃銃のメンテナンスをしているガイ。

星見郷を誅伐している清王さん。

そして、……寝ている月守さん。

俺と美唯から始まった仲間の輪も、いつの間にか大きくなったものだ。


寝ている月守さんを起こそうと思った瞬時、桜夜先輩がゆっくりと千鳥の刃先を天に向けた。


「刻限だ」


柄に力を込めた刹那、一閃の電光が生じる。

これはまさか恒例と化しているあの起こし方だろうか?


「千鳥に宿われし雷魂よ、再び、生ずことを請う」


そして、一波ニ波と電流が流れ始めた。

それと同時に、俺を含む全員が両耳を塞ぐ。


「今、此処に雷魂を開放する」


呪を唱え終わると、天地を揺るがすような雷音が響く。

耳を塞いでいても圧迫されそうだ……。


「立花道雪、雷切」


既に桜夜先輩の声は雷音で掻き消されている。

そんな中、確かに聞こえる声があった。


「ぎゃぁあああああああああああッ!!!!!」


月守さんはオリンピック選手並みの速さで上体を起こし、反射的に両耳を押さえる。

お年寄りなら比喩なしで心臓止まっていただろう。

いや、月守さんも一瞬止まっていたかも知れない。


「おはよう月守くん。今日も良い目覚めで何よりだ」


「沙耶先輩……! いつも目覚ましが強烈過ぎますよ! もうちょっと優しく起こして下さい!」


「これでも今日は雷音を下げた方なのだが……」


「そういう問題じゃないですッ!!!」


いつも通り多事の朝がこうして過ぎようとしていた。



◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇



「今日こそこの異世界から脱するぞ」


朝ご飯を食べ終わったと同時にそう強く唱える桜夜先輩。

そういえば、異世界に堕ちて今日は何日目だろう?

異世界に堕ちた日は9月1日。 確か今日は9月の……6日だっただろうか。

火起こしの数を数えれば、自ずと何日か解る。

随分と長い間いたような体感はあるが、一週間も経ってないんだな……。

つまり、桜夜先輩たちと出会ってから一週間も経ってないという事か。

まったくそんな感じはしないな……。


「そうですね。一刻も早くこの異世界を終わらせましょう」


俺がそう言うと、いつも肌に触れるぐらい近くにいる星見郷は、


「ちょっと待ってよぉ! さあらはこの世界の事なんも知らないんだよぉ!?」


いつも通りのアニメ声は変わらず、常にハイテンションの星見郷。

……星見郷もこの世界の事を知らないのか。

すると、桜夜先輩が警告にも似た声で、


「知る覚悟は在るか?」


桜夜先輩の気迫に喉を鳴らす星見郷。

それから少し俯き、自分自身と対話をする。

この世界を知るべきなのか知らないべきか。


「……教えて」


星見郷は真剣な眼差しを桜夜先輩へ送る。

その青く澄んだ瞳に命じて、桜夜先輩は語りだした。

そういえば、サファイアのように青く澄んだ星見郷の眼……。

どこかで見覚えがあった。


「解った。仲間として私たちの知っている全てを話そう」


この世界は異世界であること、そしてこの世界で起こっている狂気を、俺たちの知っている全てを桜夜先輩は話した。



◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇



「ここは……そんな酷い世界だったんだぁ……」


星見郷から陽気さは消え、真摯さだけが残る。

まだ見ぬ一面に、俺は少しばかり驚いた。


「だから……この世界が故郷みたいに居心地良く感じるさあらは最低かも知れないねぇ」


星見郷の言葉を誰もが理解出来なかった。

それが言葉通りの意味だとするなら、星見郷さあらは一体何者なんだ?

こんな世界を故郷みたいに居心地良く感じるはずがない。

だが、桜夜先輩は寒い眼も冷たい眼もしてなかった。


「星見郷くんの記憶は曖昧だ。この世界と記憶がどこか関係しているかも知れない」


世界と記憶。

この言葉で俺はある少女を思い出した。

それは、桜凛武装高校で出会った「架瀬セナ」

彼女の場合、数日間……約一週間の記憶が消えていた。

異世界に堕ちたのも約一週間前。

理由は一片も解らないが、架瀬セナの記憶が消えた原因はこの異世界と関係しているだろう。

なら星見郷もこの世界と何か関係が……?

思い返せば、架瀬さんの瞳と星見郷の瞳……二人ともサファイアのように青く澄んだ、似た眼をしている。


「さ、さあらの記憶とこの世界が関係してる……?」


「確証はない。だが、その可能性もあるという事だ。その場合は……」


桜夜先輩の深奥な眼で、希望を託すように星見郷を視る。


「君がこの世界の鍵になるかもしれない」


「さあらがこの世界の鍵……!?」


眼を見開き、桜夜先輩の言葉に驚愕する星見郷。


「もしそうなら、この異世界を脱する事も壊す事も星見郷くんなら……」



「そうはさせないぞっ!!!」



桜夜先輩の言葉を掻き消すように、天空から声が聞こえた――!?

反射的に俺たちは天空を見上げる。


その先には―― 少女の人影。


宝石みたく輝く長い青黒髪は、全ての風が彼女を包み込むように華麗に舞い上がらせていた。

空から来た少女が地面に着いた時、殺気とも取れる強い風が吹き乱れた。

スゥっと視線を上げ、俺たちを睨みつける。

反射的に結界を造ろうと左眼を見開こうとするが、何かに縛られているように俺たちは微動だに出来なかった。


――圧倒的な存在感。


自分自身、生きているという事も解らなくなる。

その証拠を掴む為に、俺はただその少女を見つめる。

いや、誰もが見る事しか出来なかった。


彼女が一歩踏み出す。


聞こえる筈の足音は、操られたような風の渦に霧散して行った。


また一歩踏み出す。 そしてまた一歩。


「だ、誰だ貴様はッ!!!」


これは何かの術か!?

俺の身体はまったく動かず、出そうとする言葉は沈んで消えていく。

その中でも、桜夜先輩だけが言葉を発せられた。


「ほぉ、それがしの術を破るとは」


桜夜先輩の言葉に立ち止まった少女。

だが、感心は示唆していても、その表情は無表情のまま。

この少女……今まで戦って来た人たちとは何もかも違う……!

桜夜先輩が圧されているなんて……!


「だが無駄じゃ、お主等に某は倒せない。破ったのは所詮言霊だけじゃ」


その言葉で魂に火が点いた桜夜先輩は、


「な、なめるなぁ―――ッ!!!」


微動だにしない身体を桜夜先輩は無理やり動かす。

表情は痛さで歪み、剣を握る為に動かした右腕は細かく痙攣している。

それでも、動かせれた程度だ。


「この世に滅せぬものなどない。この世界が永遠ではないように、滅せぬものなど存在しないッ!!!」


そう強く唱えた桜夜先輩から何かが解き放たれた――!

その瞬間、俺たちの動きを封じていた呪縛も解け、動きを取り戻す。

桜夜先輩は機敏に千鳥を鞘から抜き、両手でしっかりと構える。

武器は腰に差してある刀だろうが、少女は一方に構えようとしない。


俺も出来る限りの事はする……!

身体の動きを確かめる為に、何度も指を開いては閉じるを繰り返した。

大丈夫だ……いつも通り動く。これなら結界も……!


「某の術を全て破ったか。少しは骨があるようじゃな」


「私は剣を握って戦いに敗れたことは一度もない」


桜夜先輩は刃先を少女へ向ける。

その桜夜先輩の眼光は寒心するほどのもの。

なのに少女は己を保っている。いや、それどころか睨み返している。

一触即発とはこの事だろう。


「退け、私たちに戦う理由はない」


その桜夜先輩の言葉に、少しだけ少女に感情が入った。


「戦う理由ならある。某はこの世界を護衛する者。某を邪魔するモノは斬る」


「この世界を護衛だと……? 痴れ事もいい加減にしたまえッ!!!」


今にも飛び掛りそうな桜夜先輩。

この少女は……この世界を護衛する者だと?

一体、何の為に?俺には狂気としか思えない。


「この世界は某が死守する。絶対にじゃ」


その瞬間、不意に美唯が夢遊病患者のように少女に向かってゆっくりと歩き出す――!?


「み、美唯ッ!?」


俺の叫びにも一切反応しない……。

何考えてんだよ美唯ッ!

あの少女に向かってく何て狂気過ぎるだろ―――ッ!?


美唯を止める為に俺は駆け出した――!


「美唯、止まれぇ!!!」


俺は美唯の肩を掴み、強引に止める。

幸い少女と美唯の距離が離れていた為、ゆっくりと歩く美唯に間に合った。

まさかあの少女に……操られているのか?

美唯がこんな失態をするはずがない。


「美唯、大丈夫か?」


俺の言葉にも一切反応せず、美唯はずっと視線を落としたまま立ち尽くし、身体は小刻みに震えている。

そして、美唯は一気に視線を上げ、あの少女を視て叫んだ。


「あすかぁぁぁああああッ!!!!!」



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