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27話-(1) 想いの果てにあるもの

ー君の魂に抱かれてー(きみのこころにだかれて)


この作品はフィクションです。

登場する人物・団体・地名・事件・世界設定などは全て架空の物であり、

実際の物とは一切関係ありません。


「君の魂に抱かれて」は本編とboy and girls' aspects

で構成されています。

初めて読む方は、本編からご覧ください。



それから俺たちは何度にも渡り無謀な火起こしを続けた。

その一つは俺が綿を持ち、俺を中心とした両者が同時に綿に向け発砲する。

二つの銃弾が綿の中で交差して、火花が散って引火。

……という少女の考えだった。


結果、綿を持っていた俺が死ぬ思いをしただけだった。


それからも少女の案で火起こしは続いた。

だが、結局は全て玉砕した。

その結果、また俺による板と棒を使った原始的な火起こしが始まったのだ。


だが、俺も手馴れたものだ。

過去最高タイムで火が点き、身体の負担を最小限に抑える事が出来た。

最初からこれをすれば良かったと酷く悔恨した。

そして、かなり時間は経過したが、ようやく清王さん念願の食事が始まった。


「桜夜先輩……」


俺は手に持っている皿を見つめる。


「ん?どうしたのかね? 遠慮せず食べたまえ」


「何でおめでたい訳でもないのに赤飯なんですか?」


皿の上に盛り付けてあるのは、薄いピンク色をしている赤飯。

もちろん小豆入りだ。


「君は赤飯が嫌いなのか?」


「いや……嫌いじゃないですけど」


「ならいいじゃないか」


俺が言いたいのは好きか嫌いかじゃない。

赤飯というのは、おめでたい時に食べるものじゃないのか?

そんな事を思っていると、「いただきます」という声が聞こえ始める。

その中でも餓死宣言をした清王さんは無心で食べている。


いつもクールな清王さんが、無心で食べているのを視て俺は気付いた。

この世界でこうやって食べ物を食べれる事態がおめでたい事かもな……。

俺は小さく微笑してから、赤飯を頂いた。



◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇



「星見郷くん。君はこれからどうするつもりだ?」


俺たちは焚き火を囲むように座り、桜夜先輩の一声で話し合いが始まった。

それは少女の是非。

そして、その少女は自ら率先して俺の隣に座っていた。


「どうするって決まってるよぉ! お兄ちゃんと一緒にいる!」


そう言って少女は俺の腕に巻き付くように抱きつく。

どう対処していいか迷ったが、とりあえず全力で脳天にチョップをお見舞いした。


「いたぁ~~~いッ!!!」


頭を抱え込む少女。

まぁ、全力だからしょうがないか。


「今ので本格的に記憶が全部飛んだぁ!」


そういえばこの少女、記憶喪失ではないが記憶がごちゃまぜだったんだよな……。

まぁ、何でも叩けば直る世の中なんだから少女の記憶も叩けば直るんじゃないか?

……それは昔の話か。

今はIC制御の精密機械だもんな。

そういえば、昔のテレビはブラウン管だったから叩く所があったが、今は液晶の時代だ。

一体、どこを叩けば直るのだろうか?

……その前にメーカー保障があるのか。


「安心しろ。叩けば直る!」


「それは昔の話だよぉ! それに、さあらは機械じゃな~いッ!」


「そうなのか? 俺は良くみゆ……どっかの誰か様に殴られた痛みを痛みで緩和されてたぞ?」


その瞬間、傍らから背筋が凍る程の鋭い視線を感じた。

美唯の事を語っているのが摩られたようだ。

まぁ、明らかに美唯って口走ったからしょうがないか。


「別に美唯、お前の事じゃないから安心していいぞ」


「へぇ~じゃ、どっかの誰か様って誰のこと?」


まさに一触即発の笑顔だ。

これは全力で回避しないとな。


「ああ、俺だよ。俺は自分自身を痛みつけるのが止められないのさ」


「絶対に違うでしょッ! その前にそれ病んでるよッ!」


「大丈夫だよお兄ちゃん! さあらが付きっきりで看護してあげるよ!」


「いや、お前が付きっきりで看護したら理性が劣等化しそうだから遠慮するよ」


「ええぇ~! お兄ちゃんのさあらのイメージってどんなのなのッ!?」


「その前に自分自身を痛みつけるのが止められない時点で理性は劣等化してるでしょ?」


「…………」


美唯の正当な言葉に、言葉を失った。


俺たちの意味のない談笑を見ていた桜夜先輩はクスッと微笑した。

そして、口を開いた。


「では改めて自己紹介をして貰おうか。星見郷くん」


「ええぇ?」


突然の事で聞き返す少女。


「君の記憶がどこまで有るか、その確かめにもなるからな」


桜夜先輩は笑顔を返す。

ああ、この笑顔は頼まれたら断れない類の笑顔だ。

邪気など何もなく、真摯がこもっている。


「う~ん」


少女は首を傾げ、考え込む。

想っている事を言葉に出来なさそうなもどかしい表情だ。


「記憶は薄っすらと覚えてるんだけど、この記憶が本物じゃない気がするの。もちろん本物だと思う記憶もあるけど」


少女の口語から陽気さが消え、深奥な境地になる。

その言葉に桜夜先輩も考え込む。


「記憶喪失ではなく、記憶を書き換えられた……いや、後付された記憶かもしれない」


「どっちかというと後付けが正しいかな。小学校低学年ぐらいの記憶は本物だと思うんだけど……うう゛、何て言えばいいんだろう。それからは本物じゃないというか……」


少女は額を押さえつける。

すると、直ぐに表情を歪ませた。


「いたぁッ!?」


「星見郷くんッ!? 大丈夫か?」


「ご、ごめんお姉ちゃん……えへへ、無理に思い出そうとするとこうやって頭が痛むんだよねぇ……」


無理に笑顔を作る少女。

余程の激痛だったのか、額からは冷や汗が流れていた。


「無理な事を言ってすまなかった」


「お姉ちゃんが謝る必要なんてないよぉ、ありがとう」


少女は、小学校低学年の記憶は薄っすらだが覚えている。

だが、ある時点から記憶が後付けされている。

という事だろう。

それがどうしてなのか? なぜなのか?

解かる術はないというのか……。


だが、一つだけ解かる事がある。


この少女は普通じゃない・・・・・


俺はあの時を回想する。

少女は美唯を護ろうとした俺を殺さなかった。

それは少女の記憶に何か関係している。

『さあらはアイツ等とは違う……! 絶対に違うっ!!!』

この少女の言葉は本能から出た言葉だろう。


「ああ、そうだった忘れてた」


少女は照れ笑いをして立ち上がり、俺たちの正面に立った。

ああ、ちょっと考え過ぎてたな……。

俺は一区切りをつける為に、ブルブルと首を振った。


「桜凛武装高校1年総合科Aランク『星見郷さあら』称号『加護のアグライア』お兄ちゃん! よろしくね」


「星見郷くん、中沢くんだけに自己紹介をするんじゃない」


「ええぇッ!?」


「……なぜそこで絶叫するのかね?」


「一年生のくせに小生意気な!」


「月守くん。君も一年じゃなかったのか?」


俺はその光景を眺めていたら、傍らの美唯が優しく囁いた。


「また賑やかになったね」


「そうだな。この明るさは絶対に見失っちゃ駄目だ。これがこの世界を壊す為の何より大切なものかもしれない」


俺はそのまま、流れるように清王さんを視る。


「……何か用?」


「いや、なんでもない」


少し膨れっ面になる清王さん。

清王さんはクールだから清王さんなのか。

明るい清王さんなんて想像も出来ない。

いや、案外面白いかもしれない。

あとで矯正してみよう。


その後も俺たちは寝るまでの時間、賑やかに騒ぎ合っていた。



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